ドネツク側とウクライナ側の両方で、撮影を敢行。庶民の“こころ”に迫る『ウクライナから平和を叫ぶ』

 2010年前後、ニューヨークのバワリー地区にあるウクライナ博物館を訪ねた。その足でウクライナ・レストラン(というか庶民的な食堂)にも行った。赤かぶのスープみたいなものを飲んだ記憶がある。

 2022年、もっとも話題にのぼった国をひとつあげるなら、やはりウクライナということになるだろう。今日こうなってしまったことの発端に数えられる、2013年9月の「ヤヌコーヴィチ大統領、欧州連合との連合契約に署名せず」。さらにそれを起点とする反政府デモ、ヤヌの国外逃走、ロシアのクリミア半島併合に至る過程は、ぼくもこの春にNetflixのプログラム『ウィンター・オン・ファイヤー ウクライナ、自由への闘い』で勉強した。

 あちらが俯瞰で歴史を捉えたものだとすれば、この『ウクライナから平和を叫ぶ~ Peace to you All ~』は、老女、子供、ホームレスなど庶民(大佐や、身体の一部を失った退役軍人も含む)への取材を通じて、より“人の心”に迫った一作といえるのでは。しかもドネツク側とウクライナ側の両方で、撮影が行われている。

 庶民が「みんなへ平和を」と合唱する楽曲も挿入されるが、そもそも彼らは平和なのだ。戦いは庶民の気持ちとは別の所で、エライ者たちの一存によって決まる。監督・脚本・撮影は、スロバキア人写真家のユライ・ムラヴェツ Jr.が手掛けた。

映画『ウクライナから平和を叫ぶ~ Peace to you All ~』

8月6日より、ユーロスペースにて公開中。以後全国順次公開

キャスト:ユライ・ムラヴェツ、ウクライナの人々、ドネツクの人々
監督・撮影:ユライ・ムラヴェツJr.
原題:Mir Vam(英題:Peace to you All)
監修:岡部芳彦
配給:NEGA
配給協力:ポニーキャニオン
2016 年/ スロバキア/1時間7 分/ カラー・モノクロ/1.85:1/5.1ch/ スロバキア語・ウクライナ語・ロシア語

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