映画『夜明けまでバス停で』が公開。出演の根岸は「厳しい現実とそれを吹き飛ばすだけの怒りが込められた映画です」

 2020年冬。幡ヶ谷のバス停で寝泊まりする、あるひとりのホームレスの女性が、突然襲われてしまう悲劇があった。非正規雇用や自身の就労年齢により、いつ自分に仕事がなくなるか分からない中、コロナ禍によって更に不安定な就労状況。そして自らが置かれている危機的状況にもかかわらず、人間の「自尊心」がゆえに生じてしまう、助けを求められない人々。本作は、もしかしたら明日、誰しもが置かれるかもしれない「社会的孤立」を描く。

 『痛くない死に方』の名匠・高橋伴明監督の、「今、これを世の中に発信しなければ」という想いに、日本映画が誇るスタッフとキャストが集結。バス停で寝泊まりするホームレスに転落してしまう主人公・三知子役に『欲望』(2005)以来の映画主演となる板谷由夏、三知子の働く居酒屋の店長に大西礼芳、マネージャーに三浦貴大。石を振り上げる男・工藤武彦役に松浦祐也、居酒屋の同僚役にルビーモレノ、片岡礼子、土居志央梨。ユーチューバー役に柄本佑、三知子のアトリエのオーナーに筒井真理子、介護職員にあめくみちこ、古参のホームレスに下元史朗、根岸季衣、柄本明と、実力派俳優が勢ぞろいした。

 10月8日、初日舞台挨拶に、出演の板谷由夏、大西礼芳、ルビーモレノ、根岸季衣、高橋伴明監督が登壇。板谷由夏が役作りで居酒屋でバイトをしてみた話、ルビーモレノがカメラが回っていないところでも大西礼芳んを「店長」と呼んでいる話、根岸季衣の派手婆と呼ばれるホームレスを演じる上でこだわった点についてなど、裏話を聞くことができた舞台挨拶となった。
          ●          ●
 冒頭、17年ぶりの主演映画となった板谷由夏は、「高橋伴明監督とは20数年ぶりにご一緒させていただいたんですけれど、『怒りを封じた「光の雨」にお前がいて、怒りを出す時(本作)にお前がいるから因縁を感じると』言ってくださいました。監督の怒りと言いますか、世に対する強いメッセージが込められた映画だと思います。いろんな思いを映画を通して社会にぶつけるのがエンターテイメントの役割だと思っています。この作品を見て何か感じることがあれば、周りの方に薦めていただければと思います。」と本作のメッセージ性を強調。

 三知子の働く居酒屋の店長の千晴役の大西礼芳は、「高橋伴明監督は私にとって大学の恩師であり、デビュー作の監督でもありました。こうやってまたご一緒に舞台挨拶をさせていただけることを幸せに思っています。」と感無量の様子。

 ホームレスの派手婆役の根岸季衣は、「打ち合わせしたわけでもないのに、全員モノトーン(の服)で。こんなに艶やかな女優が揃っていながら、なぜか喪服のような状態になりまして、さぞや暗い映画を見せられるのではないかと思うかもしれないんですけれど、面白いです!」と太鼓判を押した。

 渋谷ホームレス殺害事件で亡くなった大林三佐子さんは当時64才で、スーパーで試食販売の仕事をしていたとのことで、本作は彼女の半生の映画化ではなく、モチーフとしたオリジナル映画となった。板谷は「演じると決まってから色々紐解きましたけれど、本当にどこにでもいらっしゃるような女性で、共通項がどの女性にもあると思うんです。その彼女がどうしてバス停で寝泊まりすることになってしまったのかを自分なりに解釈しました。」と話した。

 板谷はクランクイン前に居酒屋でバイトをしてみたとのこと。「誰も気づかなかったんです。監督に、『お前、誰にも気づかれないなんて寂しいな』と言われて。元々居酒屋の経験がなかったので、所作として自分に入れ込みたくてバイトしたんですけれど、女性たちに出会えたことが糧になりました。みなさんいろんな事情があって、お昼のお仕事した後に居酒屋のバイトをする方や、ルビーさんみたいに外国の方もいらっしゃいましたし、それぞれがそれぞれのことを背負っていましたので、勉強になりました」と話した。

 大西は、「私は店長役で、板谷さんとルビーさんはパートさんなんです。絶妙な距離感がありまして、劇中では仲良くなりづらかったんですが、カメラの回っていないところで、皆さん優しく温かくずっとお話ししてくださって、ルビーさんはずっと『店長、店長』と言ってくださっていたんです。」と話すと、三知子の同僚のマリア役のルビーモレノは「今日も店長と呼んでいる」と告白。大西は、「それがお芝居に響いた瞬間があったんです。それがすごく幸せな経験でした」と話した。モレノは、「店長でしかなかった! 撮影の時は妹みたいな感じだった」と可愛がっている様子を見せた。

 根岸は、ホームレスの派手婆役。「汚れが本物じゃないとバレるので、肌を出さないようにした。爪の中も黒くしたんですけど、これが爪を切らないと取れないので、黒い爪は、撮影が終わるまで日常で恥ずかしかったです。」と裏話を披露した。

 本日のK’s cinemaでの上映を自腹で見たそうで、ご自身の役について、「厳しい現実とそれを吹き飛ばすだけの怒りが込められた映画ですけれど、いいクッションになっているのかな」と分析した。

 最後に伴明監督より、「この映画の中にいろんな人物の名前やいろいろな出来事が散りばめてあります。そうしたものをつなげていくと、なんで日本はこんなことになっているのかということがわかるんじゃないかなと思っていまして、それに気がついた方は、もっと怒っていただきたいなと思います。最後の方にも仕掛けがありますので、エンドロールが始まっても席を立たないでください」とメッセージが送られた。

映画「夜明けまでバス停で」

絶賛公開中

●ストーリー

北林三知子(板谷由夏)は昼間はアトリエで自作のアクセサリーを売りながら、夜は焼き鳥屋で住み込みのパートとして働いていたが、突然のコロナ禍により仕事と家を同時に失ってしまう。新しい仕事もなく、ファミレスや漫画喫茶も閉まっている。途方に暮れる三知子の目の前には、街灯が照らし暗闇の中そこだけ少し明るくポツリと佇むバス停があった…。

一方、三知子が働いていた焼き鳥屋の店長である寺島千晴(大西礼芳)は、コロナ禍で現実と従業員の板挟みになり、恋人でもあるマネージャー・大河原聡(三浦貴大)のパワハラ・セクハラにも頭を悩まされていた。

誰にも弱みを見せられず、ホームレスに転落した三知子は、公園で古参のホームレス・バクダン(柄本明)と出会い…。

これは、ある日誰にでも起こりうる、日本の社会の危惧すべき現状を描いた物語である―。

<キャスト>
板谷由夏
大西礼芳 三浦貴大 松浦祐也 ルビーモレノ 片岡礼子 土居志央梨
あめくみちこ 幕雄仁 鈴木秀人 長尾和宏 福地展成 小倉早貴
柄本佑 下元史朗 筒井真理子 根岸季衣 柄本明

<スタッフ>
監督:高橋伴明 脚本:梶原阿貴 音楽:吉川清之 主題歌:Tielle 「CRY」(ワーナーミュージック・ジャパン) 製作:人見剛史 小林未生和 長尾和宏 髙橋惠子 エグゼクティブプロデューサー:鈴木祐介 プロデューサー:角田陸 小林良二 見留多佳城 神崎良 佐久間敏則 撮影監督・編集:小川真司 照明:丸山和志 録音:植田中 美術:丸尾知行 装飾:藤田徹 衣装:青木茂 ヘアメイク:結城春香 VFX:立石勝 アクセサリー指導:ななし・水城 制作担当:櫻井陽一 助監督:塚田俊也 配給:渋谷プロダクション 制作会社:G・カンパニー 2022/JAPAN/ビスタ/5.1ch/DCP/91min
(C)2022「夜が明けるまでバス停で」製作委員会

公式サイト