正月気分を吹き飛ばす韓国ノワール『野獣の血』。札付きの不良から組織のエリートになった男が、「内省」を深めた先にあるものは?

 観るうちに浮かんできたのは「緊迫」という一語だ。年始の、まだダラっとしている気持ちに冷水を浴びせるがごとき内容といっていい。時代は1993年春、舞台は釜山港の外れの街「クアム」。30年ほど前、世の中はこんなに荒々しかったのか。

 主人公の「ヒス」は。養護施設出身の、根っからの不良。親分「ソン」に拾われて、彼の下でしのぎをはじめる。成績は優秀だ。そこに養護施設時代の仲間を使ってヒスを懐柔しようとする別の組織が現れる。血で血を洗う世界、だがそれは限りない憎しみを生むばかり。さすがにヒスも、これに飽き飽きしはじめる。

 不良がピュアだとはまったく思わないが、ヒスはひじょうにフラットに物事を考えるタイプであると筆者は見た。だがソンがいる限り、のしあがったとしても彼の子分のままだし、第一、この稼業では恋人との快適な生活もままならない。「親分への忠誠」、「恋人との未来」、「人間的な毎日」、それらいろんな要素が、時に天秤にかけられる。内省を深めていくヒスの横顔が美しい。より良い未来に向かうために、何を取捨選択するのか。それは韓国人ではなくても、ヤクザ経験がなくても、誰もが抱える心の葛藤だ。

 原作はキム・オンスの小説。作家のチョン・ミョングァンが初めてメガホンをとり、ヒスには、どちらというとほがらかなキャラクターという印象が強いチョン・ウ(『偽りの隣人 ある諜報員の告白』など)が扮する。この人選にもひねりを感じた。

映画『野獣の血』

1月20日より全国ロードショー

監督:チョン・ミョングァン/原作:キム・オンス/英題:Hot Blooded/提供:ニューセレクト/配給:アルバトロス・フィルム
2022年/韓国映画/韓国語/120分/シネスコ/5.1ch/字幕:安河内真純/映倫PG12
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