男として、父親として立ち上がる時が来た。名優アントニオ・デ・ラ・トレ主演のノワール・アクション『ティアーズ・オブ・ブラッド』

 父として、夫として、仕事に就く者として、男として。そのすべての分野で等しく優れている者など、果たして世の中のどこにいるだろうか。どこかに力を注げば必ずどこかがおろそかになり、つまり、どうしようもなくデコボコしてしまう人間像こそが現実のものだろう。この映画の主人公レオは老境に入って久しい人物だが、映画の中での彼は、日一日と、悩み、怒り、悲しみを深めているようにも見える。

 「過去」は不明ながら、レオは地下鉄の運転手として生計を立てている。ある時、ひとりの若者が線路に飛びこんできた。レオは最悪の状況を回避したつもりだったが、若者は間もなく死んだ。というのは銃で撃たれていたからだ。そしてその若者が自分の息子であることをレオは知る。なぜすぐにわからなかったかというと、久しく交流がなかったからだ。

 「息子はなぜ撃たれたのだろう」、「“闇”と関わっていたのではないか」等を考えるのは父親として当然だろう。そして映画を観る者としてぜひ知りたくなるのが、「なぜふたりは疎遠になったのか」だ。レオはひとりのファイターとなって、事件の核心へと迫ろうとする。が、それはまた警察がおこなっているものとは別のアプローチであり、結果、我々は、ひとつの事件から枝分かれした、さまざまな立場のひとたちのマインドを知ることになる。

 伏線はたっぷり、だがそれが実にスマートに回収されていくあたり、ジョルダーノ・ジェデルリーニ監督(第72回カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞し、アカデミー賞国際長編映画賞にもノミネートされた『レ・ミゼラブル』の脚本家)の才気でもあろう。ベルギー・フランス・スペイン共作映画であるのも、「ああ、ぜひ、そうでなければなかったんだな」と思わせるに十分だ。レオを演じるのはスペインの名優アントニオ・デ・ラ・トレ。共演はマリーヌ・ヴァクト、オリヴィエ・グルメほか。

映画『ティアーズ・オブ・ブラッド』

5月17日(金) より 新宿バルト9 ほか 全国ロードショー

監督・脚本:ジョルダーノ・ジェデルリーニ 撮影:クリストフ・ニュイエンス 編集:ニコラス・ドメゾン 音楽:ロラン・ガルニエ 美術:イヴ・マルタン
出演:アントニオ・デ・ラ・トレ、マリーヌ・ヴァクト、オリヴィエ・グルメ
2022年/100分/ベルギー・フランス・スペイン/フランス語・スペイン語/5.1ch/シネスコ/字幕翻訳:横井和子
配給:クロックワークス
(C) Frakas Productions – Noodles Production – Fasten Films – Entre la vida y la murte, Aie – Eyeworks films & TV drama – Le Pacte – RTBF – FWB

公式サイト
https://klockworx-v.com/tears/