第74回ベルリン国際映画祭で銀熊賞(芸術貢献賞)、第57回シッチェス・カタロニア国際映画祭で最優秀作品賞に輝く一作。タイトルに出てくる単語“バス”は乗り物ではなくフロ(bath)を示す。なぜこの題名なのかは観ていくうちにわかる。

時代背景は18世紀半ば、場所はオーストリア北部の小さな村、主人公はそこに嫁いできた(ということは“よそ者”)のアグネス。当然ながら村には伝統的な、独自のしきたりがある。それらのいくつかは明らかに不気味で、確実にアグネスに「なぜ?」という気持ちを与えるものであったはずだが、嫁入りした以上、そこに溶け込んでいかなければ、くらいの気持ちは持ち合わせていたはずだ。が、「村」の空気と「アグネス」の感性はどうにも相いれなかったし、夫はなんだかんだいって母(アグネスにとっての姑)離れができていない。さらにアグネスは子宝に恵まれなかった。男児が生まれたら「次世代の兵隊ができた」とばかりに村中大喜びなのかもしれないが、村人にとってアグネスは「産むことすらできないよそ者」。そこに物語の悲劇がある。
アグネスの憂鬱は増すばかりで、こうなると「婚姻解消」「村を飛び出す」「自ら人生を終わらせる」などの選択肢が見えてくる。が、ラストに関しては「宗教上の禁止事項」となっているので、できない。そこでアグネスが選んだ道は、非常にロジカルなものだった。細かく書くのは避けるが、誰にとっても「どんどん狂気にとらわれてきている」ように見えるであろう彼女の中に残っていた、何パーセントかの「冷徹な頭脳」が見事に機能して、それが後半のストーリー展開そのものを支配していくような感じだ。
今から300年ほど前の話であり、時代背景も場所も異なるのに、私は、この陰湿な空気にどこか「いま」を感じ、観終えてからしばらくどんよりとした余韻に浸った。監督・脚本:ヴェロニカ・フランツ、ゼヴリン・フィアラ、出演:アーニャ・プラシュク、ダーヴィド・シャイト、マリア・ホーフスタッターほか。
映画『デビルズ・バス』
5月23日(金)新宿武蔵野館ほか全国ロードショー
監督・脚本:ヴェロニカ・フランツ、ゼヴリン・フィアラ
製作:ウルリヒ・ザイドル、ベティーナ・ブロケンパー
撮影:マルティン・ゲシュラハト
編集:ミヒャエル・パルム
衣装:ターニャ・ハウスナー
音楽:ソープ&スキン(アーニャ・プラシュク)
出演:アーニャ・プラシュク、ダーヴィド・シャイト、マリア・ホーフスタッター
2024年|オーストリア、ドイツ|ドイツ語|カラー|ビスタ|5.1ch|121分
レイティング:PG12
原題:DES TEUFELS BAD|英題:THE DEVIL’S BATH
字幕翻訳:吉川美奈子
配給:クロックワークス
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