特集上映『ギィ・ジル監督 初期二作品』、別離、はかなさ、痛み。“忘れ去られたヌーヴェルヴァーグ監督”が残した珠玉の2作品

 不勉強にして今回、ギィ・ジル監督の名を初めて知った。“忘れ去られたヌーヴェルヴァーグの名匠”とも言われているそうだが、知ってよかったし、これほどしっかり作りこまれた作品を見せられたら、忘れるのは難しいと思う。1938年、アルジェリア生まれ。ここからフランスに出て大いに脚光を浴びた人物と言えば、ジャン=リュック・ゴダール監督の映画『勝手にしやがれ』の音楽を担当したマーシャル・ソラールもそうだった。

 『海辺の恋』(1964年)はジャン=ピエール・メルヴィル監督が資金の一部を援助、3年の歳月のちに完成したという作品で、ロカルノ映画祭の批評家賞にも輝いた。ある種、運命的な出会いをしたものの、久しく会っていない水兵のダニエルに寄せる、ジュヌヴィエーヴの手紙が物語のモチーフとなっている。“会えない時間が愛を育てるのだ”という、郷ひろみの歌にあるフレーズを思い出させてくれる一作だが、自分の持つ愛の濃度が相手のそれとつりあっているのかどうかもわからず、いいや、それどころか確認することも不可能なのだという哀しさ、やるせなさ……。余韻をスパッと断ち切るような終わり方もいい。

 主演はダニエル・ムースマン、ジュヌヴィエーヴ・テニエ、ほかアラン・ドロン、ジュリエット・グレコも登場する。出演人物のファッション・センス、雑踏の風景、モノクロとカラーの効果的な転換も含めて、アート、映画、音楽の密な交流も感じられる一作だ。

 『オー・パン・クぺ』(1967年)は、ジャンとジャンヌの物語。ジャンヌは楽しく、緊張感を強いたりしないカップルを理想に描いているところがある。だがジャンにはそれが理解しきれない。なぜなら家出と施設入りを繰り返してきたからだ。だから、いわゆる、ファミリアな幸せを知らず、そうなることをむしろ怖がっているところもある。だから結局ジャンはジャンヌの許から離れていく。もちろん、もともと厭世的な人物でもあった。そんな彼が、特に自殺を試みたわけでもないのに、ひとり自然に亡くなってしまった。これを視聴者は「わかって」次のチャプターに視線を移すのだが、ジャンヌにジャンの訃報がとどくことはない。いつ戻ってくるのかとの思いを抱えたまま、塩辛い毎日を生きている。

 現在をモノクロ、過去をカラーで描いているのもポイントのひとつで、過去にしても別に多幸感にあふれていたわけでもないだろうに、それでもジャンヌにとってはジャンがいるだけで風景が色づいて見えたのだ。こちらもエンディングは無慈悲なまでに余韻がない。そこに監督が持つ辛口の美学を感じた。

特集上映:ギィ・ジル監督 初期二作品『海辺の恋』/『オー・パン・クぺ』

4月18日(土)よりシアター・イメージフォーラム ほか全国順次公開

「海辺の恋」
監督・脚本:ギィ・ジル 撮影:ジャン=マルク・リペール 音楽:ジャン=ピエール・サロ 録音:ジャン=ジャック・カンピニョン 編集:ナウン・セラ
出演:ダニエル・ムースマン、ジュヌヴィエーヴ・テニエ、ギィ・ジル、ジュリエット・グレコ、アラン・ドロン、ジャン=クロード・ブリアリ、ジャン=ピエール・レオ
原題:L’Amour a la mer 日本語字幕:上條葉月 提供:クレプスキュール フィルム、シネマ サクセション 配給:クレプスキュール フィルム
【1964年/フランス/フランス語/モノクロ・カラー/73分/DCP】
(C)1965 Films Galilee

「オー・パン・クぺ」
監督・脚本:ギィ・ジル 撮影:ジャン=マルク・リペール、ウィリー・クラント 音楽:ジャン=ピエール・サロ 録音:ミシェル・ファノ 編集:ジャン=ピエール・デフォッセ
出演: マーシャ・メリル、パトリック・ジョアネ、ジャン・ドワ・ベルナール、ピエール・フレデリック・ディティス、リリ・ボンタン
原題:Au pan coupe 日本語字幕:坂本安美 提供:クレプスキュール フィルム、シネマ サクセション 配給:クレプスキュール フィルム
【1967年/フランス/フランス語/モノクロ・カラー/68分/DCP]
(C)1968 Machafilm

公式サイト
https://ttcg.jp/ttcg_umeda/movie/1310200.html