映画『幸せの、忘れもの。』、「聴者による、聴者のための世界」での不安。劇作家、社会学者の顔も持つ新鋭監督による力作

 第55回ベルリン国際映画祭で観客賞とアート・シネマ賞、第28回スペイン・マラガ映画祭で観客賞ほか計3部門、第40回ゴヤ賞で最優秀新人監督賞ほか計3部門を獲得した話題作が日本公開される。決して派手でもセンセーショナルでもない。圧倒的なスターが出ているわけでもない。監督のエバ・リベルタは新進気鋭といったところ、だが、静かに、丁寧に物語が進んでいく。短編映画『Sorda』で手ごたえを得たことが長編の制作につながったのであろうが、その青写真は作業に取り掛かる前に完成していたのではなかろうか。

 夫婦の物語、そして家族の物語である。妻は耳が聞こえない。が、それが特別なことと感じなくなったからふたりは夫婦になったのだ。言葉が必要とあらば手話がある。穏やかな毎日。妻は陶芸工房で働いているが、皆、良い人たちといっていい。そこに、なんといえばいいのか、“揺れ”がやってくる。この妻を演じるミリアム・ガルロは監督の実の妹であるそうだが、実際に耳が聞こえないとのことで、さまざまな心のハードルを乗り越えたうえでの演技であるのだろう。またこの映画には、“音響演出”がほどこされている。聞こえる人と聞こえない人の本当の間に等距離で立ちたい、そのように監督は思っているのだろうなと想像した。

映画『幸せの、忘れもの。』

5月1日(金)より新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座 ほか全国公開

監督:エバ・リベルタ 撮影:ジナ・フェレル・ガルシア 編集:マルタ・ベラスコ 音響:ウルコ・ガライ/サウンド・デザイン:エンリケ G. ベルメホ
出演:ミリアム・ガルロ、アルバーロ・セルバンテス、エレナ・イルレタ、ホアキン・ノタリオ
2025年|スペイン映画|スペイン語・スペイン手話(LSE)|99分|ビスタ|英題:Deaf|提供:ニューセレクト|配給:スターキャットアルバトロス・フィルム
(C) 2025. Distinto Films SLU, Nexus Creafilms SL, A Contracorriente Films SL,Diverso Films AIE

公式サイト
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