各界の著名人が集結した音楽映画『ディスコーズハイ』。後藤まりこの撮影秘話も。岡本崇監督オフィシャルインタビュー解禁

 7月8日(金)よりアップリンク吉祥寺、8月6日(土)より大阪・第七藝術劇場、8月19日(金)より京都みなみ会館にて公開される音楽映画『ディスコーズハイ』は、「音楽がど真ん中に有るべきだ」という気持ちや初期衝動を込めて制作され、日本芸術センター第13回映像グランプリにて発掘賞、神戸インディペンデント映画祭2021にて奨励賞を受賞。

 来週の公開を前に、音楽業界での自身の経験と、後藤まりこ、「スムルース」、3markets[ ]、秦千香子などのミュージシャン、e-sports実況者、ホラーゲーム「Shadow Corridor」など自身の「好き」を映画に詰め込んだ、本作監督の岡本崇のオフィシャルインタビューが届いた。

――本作のストーリーを思いついた経緯をお教えください。
 普段MVの撮影を多くしていることもあって、インディーズミュージシャンがMVを作る時のあるあるとか苦労とかを表現しようと思って作り出したんですけど、キャストやスタッフが集まっていく中で、ストーリーが膨らんでいって、今に至ります。落とし所として「この楽曲を聞かせたい」という曲があったので、それに向けてストーリーを肉付けしていきました。

――主人公・瓶子撫子とライバルの別久花の名前の由来を教えてください。
 「瓶子」はレッド・ツェッペリンのジミー・ペイジが由来です。「撫子」は、乱暴な性格のキャラクターなので、対照的になるような大和撫子から名づけました。「別久」はジェフ・ベックが由来です。ペイジとベックは「ヤードバーズ」というバンドに所属して活動している中、あまり仲良くないけれどしのぎを削ってギタリストとして高め合っていたライバル関係だったので、作中の瓶子と別久の関係性に投影しました。

――「ヤードバーズ」は、二人が働く音楽事務所の名前になっていますね。瓶子と別久以外で音楽マニアにしかわからない音楽にちなんだ名前があったら教えてください。
 P-90のカリスマ的なボーカルの名前にした樺出恵留(かばで・える)は、大好きな洋楽アーティストの、ホワイトスネイクやディープ・パープルのボーカルのデイヴィッド・カヴァデールを当てました。

――田中珠里さんと下京慶子さんはオーディションで選んだとのことですが、決め手はどこでしたか?
 当時コロナ禍が始まったタイミングだったので、動画を撮影していただくというオーディションにしました。別久役は後で募集する予定で、撫子役の募集をして、応募者には撫子のセリフを読んでもらいました。ト書きをあえて少なめにしたシーンと多めにしたシーンの脚本を送って、主にト書きが少ない脚本に対してどんな判断をするか、状況やキャラクターの読み込み度を審査したんですけれど、田中さんが特にイメージに近いというか、表情や脚本のセリフの表現具合が特に優れていて、「撫子役はこの人しかいないな」と選ばせていただきました。

 下京さんも撫子役を演じていただいたんですけれど、脚本の理解度は同じくらいだったんですけれど、「別久役のオーディションは必要ないんじゃないか」というくらい、別久に合っていたので、別久役でオファーさせていただきました。

――二人には撮影前にどのような話をしましたか?
 オーディションで送っていただいた動画で、方向性としては不満もなかったので、今考えている方向性で演じていただきたいということと、本作は音楽というものを大事に考えた映画なので、僕の好きな音楽や音楽に対する思想を伝えました。

――撫子の亡き母のミュージシャン・結衣子役に、ご自身もミュージシャンの後藤まりこさんにお願いした理由を教えてください。
 単純に出演していただきたいというのがあったのと、後藤さんにお母さん役を演じてもらったら面白いなと思いました。後藤さんが子供に接する姿が想像できないので、あえて役として演じていただきたいとオファーさせていただきました。

――撮影でのエピソードはありますか?
 木造の古民家で後藤さんが大声で叫ばれるシーンがあるんですけれど、後藤さんの声量を把握しきれていなかったというのがあって、声が大きすぎて、近所の人がわらわらと人が出てきて、警察に通報されそうになりました(笑)。

――撫子が担当するバンド「カサノシタ」と別久が担当するバンド「P-90」はどのように設定していったんですか? それぞれ使用している楽曲についても教えてください。
 「P-90」は、カリスマで人気のバンドだけれど、骨太なロックをやっている、という設定にしました。「シンプルなロックが売れてほしい」「キラキラしていなくても、ギターソロとギターリフがあって、ロックをしっかりやれば売れる」という僕の願望を体現しました。なおかつ、フォーマルな装いで、ロンドンにありそうなロックな感じを作りたいという、僕のすべての趣味を投影したのが「P-90」です。楽曲はUKロックの王道、ロンドンパンクの系譜を引き継ぎつつも、オーシャン・カラー・シーンのような雰囲気を演出したいという想いがありました。

 「カサノシタ」は、ダメダメなバンドなので、やらされている感のある、楽曲にあまりマッチしない風貌という設定にしました。歌詞は現代バンドの、バンド自身に対するぼやきをテーマに制作しました。サウンド自体は現代っぽくして、プロの方たちが今どき制作しそうな曲にしました。

 「P-90」も「カサノシタ」もどちらも僕が作曲・編曲を手がけています。

――P-90の樺出恵留役を演じたミュージシャンの鈴木大夢さんご本人の曲は弾き語りが多いようで、P-90とはテイストが違いますが、P-90のボーカルに起用した理由を教えてください。
 僕はバンド活動をしているので、もともと鈴木くんとは対バンで会ったんですけれど、しゃがれていてまさにロックなその声を聞いた時に、単純にP-90の曲を彼がやったらかっこいいだろうな、やってほしいなと思いました。僕的にはかなりはまったと思っています。 

――「カサノシタ」のMtF(元男性)の儀武村剛士役にぽてさらちゃん。をキャスティングした理由をお教えください。
 もともとは儀武村役は男性ミュージシャンに演じていただきたいと思っていたんですが、オーディションをする中でどうしてもハマる人が見つからなかったんです。ぽてさらちゃん。には出演してほしいという話にはなっていたんですけど、役は決まっていませんでした。なので、儀武村役をぽてさらちゃん。にお願いして、元男性という設定にするのがいいかなとなりました。撫子に乱暴な態度を取られたりする中で、男性がやられる方がすっと入ってくるというか、女性が女性を蹴るとか殴るとか暴言を吐くシーンを自分自身が見たくなかったので、男性という設定が残りました。

――挿入歌を、岡本さんがギターボーカルを務めている「ウパルパ猫」以外に、「逆さ書道」のパフォーマンスでも注目を集める「スムルース」のボーカル・ギターの德田憲二さんと、「スリマ」の愛称で知られる3markets[ ]にお願いした理由を教えてください。それぞれどのシーンの曲ですか?
 スムルースは、十数年前に一緒にやったんですけれど、そこからスムルースは、メジャーデビューして、たくさん結果を残していって、関西バンドの中では輝かしい功績があります。僕自身、德田さんもバンドメンバーも楽曲も声も好きで、また仕事ができたらなと思っていました。彼らもちょうど活動を休止していた時なので、エンディングテーマの歌唱をお願いすることでその夢が実現するんじゃないかと思って、德田さんに思い切ってオファーをしました。もともと僕が德田さんのために作った「いつかバンドがなくなったら」という曲を、ラストシーンで秦千香子さんに歌ってもらうことがストーリー上決まっていたので、アレンジだけをアップテンポな感じに変更して、よりスカッとラストを締めくくろうと考えました。

 スリマは、バンドをやっていく中で対バンして知り合ったんですけど、彼らのMVを撮影してから仲良くなりました。スタッフと「彼らの好きな曲が大きなスクリーンで流れたらいいよね」という話をしていました。使わせていただいたのは「4月」という、MVを担当した曲です。彼らはダメなバンドマンというものを体現した歌詞がすごくいいんですけど、歌詞が人とうまくやれないということを表している曲だったので、撫子が「カサノシタ」とうまくいかないなと河川敷で思い悩んでいるというシーンに当てさせていただきました。

――主題歌の歌唱を、元「FREENOTE」で、現在人気のバンド・ハンブレッダーズのディレクターなどで活躍する秦千香子さんのお願いした理由を教えてください。
 僕の中では女性ボーカリストで1番という方なんです。誰に歌唱してもらうという中で、無理やろと思いながらオファーしたんですけれど、秦さんも二つ返事でOKしていただけました。

――「ストリートファイター」の実況解説で有名なe-sports実況者・アールさんが劇中の番組のMCとして出演していますが、以前からファンだったのでしょうか?
 十代の頃から格闘ゲームを通して、アールさんが実況や解説をしているのを見て、一ファンでした。ゲーム業界が拡大していく中で変わらず活躍を続けられているアールさんは、僕や格闘ゲーム好きの中で憧れの、象徴的な方です。

――ゲーム制作者の城間一樹さんの人気ホラーゲーム「Shadow Corridor(通称:影廊)」の神楽鈴の徘徊者も出演していますが、コラボが実現した経緯を教えてください。
 ぽてさらちゃんちゃん演じる儀武村が麻雀をしているシーンで、危険牌を打つ場面で、もともと「追い詰められている」というホラーっぽいシーンを別の角度で表現しようということは決まっていたんです。細い吊り橋で両側から黒服に追い詰められて川に飛び降りるなど考えていたんですけど、脚本執筆の終盤の頃、「ここまできたら、自分の好きなことを詰め込もう」と思いました。神楽鈴の徘徊者なら一発即死なので、状況も合致していると思って、こちらも無理やろうと思いながら城間一樹さんに思い切って連絡をとってみたという形です。

――本作の見どころはどこだと思いますか?
 個人的にはラストのライブハウスのシーンからの流れにこの映画の大事なところが全て詰まっていると思うので、そこが大きな見どころだと思います。

 あとはところどころで登場する楽曲や、チョロっと出演していたりする音楽関係者の方々とかを見つけたりして欲しいですね。

――読者にメッセージをお願いします。
 読んでくださり、本当に嬉しいです。ぜひ観に来てください。早送りで手に入れるようなインスタントな感動ではない、真っ直ぐで等身大の感動をぜひ共有していただければ幸いです。

映画『ディスコーズハイ』

7月8日(金)よりアップリンク吉祥寺ほか全国順次公開

【あらすじ】
音楽事務所ヤードバーズに叔父のコネで入社した瓶子撫子(へいし・なでこ)。売れっ子バンドを次々と排出する同僚の別久(べつく)とは違い、彼女の担当するバンド「カサノシタ」はデビュー以来鳴かず飛ばず。
おまけに極度のあがり症で自身も会社のお荷物扱い。次回作の予算もロクに下りず、自らの手でMVを制作し、その反応次第でリリースを検討という事態に。まさに崖っぷちの現状にも関わらずメンバーの危機感及びやる気はゼロ。それでも撫子は別久への対抗心を燃やし、なんとか結果を出そうと奮闘するのだが…・…。

【クレジット】
田中珠里 下京慶子 後藤まりこ
鈴木大夢 ぽてさらちゃん。 鈴木智久
川村義博 ダイスケ 片山誠子
ひがし沙優 矢野愛林 愛田天麻
伊集院香織(みるきーうぇい) アール 神楽鈴の徘徊者

監督:岡本崇 脚本:岡本崇 撮影:岡本崇、芦村真司 録音:坂厚人 照明:SAKURA 音楽:ウパルパ猫、德田憲治、3markets[ ] キャスティング:内田蘭 編集:岡本崇 助監督:中山紗奈 現場補佐:ましょ、イケガワカツヒロ キャラクター協力:城間一樹(SpaceOnigiriGames) 主題歌:「いつかバンドがなくなったら」秦千香子(ex.FREENOTE) 配給 宣伝:アルミード 製作:コココロ制作
2021年/日本/カラー/16:9/STEREO/101分
(C)2021コココロ制作

公式サイト