櫛木理宇(原作)、白石和彌(監督)、阿部サダヲ(主演)。鬼才の凄みがぶつかりあう120分余。映画『死刑にいたる病』公開へ

 怪優(といっていいだろう)・阿部サダヲの凄みがスクリーンを超えて迫ってくる印象だ。彼が扮する“榛村”は、つぶらな瞳の、ちょっと高めの声でやさしくしゃべる、気遣いたっぷりの、街のお兄ちゃん的な男性。だが榛村は「ひとの心を憎いほど巧みに操る才」を持ち合わせてしまい、しかも、とんでもないシリアル・キラーだった。天使と悪魔は紙一重、ふとしたタイミングでどちらかの面が表となる。

 原作はミステリー作家・櫛木理宇の同名小説(2017年に文庫化)。どうして“いいひと”が“凶悪犯”になっていくのか、そのあたりの原因・過程、“いいひと”と“凶悪犯”の境目などが、とても丁寧に描かれる。「そうだったのか、では、ああいう二重人格になるのも仕方がないのかもな」(もちろん、犯罪は“非”だが)と考えさせられるところと、「どうしてそこから、あんな犯罪に向かうのか」と驚かされるところと、つまり「なるほどね」と「どうして」の塩梅が絶妙で、ゆえに、観ていてどんどん引き込まれる。“冤罪”という概念の扱い方、センスにも唸った。

 日常生活をしていて、自分のまわりにいる(ごく普通に挨拶するぐらいの間柄も含めて)ひとが、シリアル・キラーだったという経験を持つひとに、ぼくは出会ったことがない。だが殺人が日常茶飯事というほどではないにしろ、日本のどこかでそれなりの頻度で起こっているのは事実だ。そう考えるとこの映画は、まったくひとごとではない。身近に迫る恐怖—–心が引き締まってゆくような気持になりながら、2時間超を過ごした。

 監督は『止められるか、俺たちを』他の白石和彌、他の出演者は岡田健史、岩田剛典、中山美穂など。5月6日から新宿バルト9ほか全国公開。

映画『死刑にいたる病』

5月6日全国公開

出演:阿部サダヲ 岡田健史 岩田剛典 / 宮﨑優 鈴木卓爾 佐藤玲 赤ペン瀧川 大下ヒロト 吉澤健 音尾琢真 / 中山美穂

監督:白石和彌
脚本:高田亮
原作:櫛木理宇「死刑にいたる病」(ハヤカワ文庫刊)
配給:クロックワークス
(C)2022映画「死刑にいたる病」製作委員会

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