ポリリズム好き必見! インドの楽器“ムリダンガム”を通じて、新時代の師弟関係、親子関係、人間関係が見えてくる

 “ムリダンガム”とは、インド伝統音楽に使われる両面太鼓の一種。胴体は木でできていて、鼓面には動物の皮が使われている。片方からは低音が、もう片方からは高音が(かなりの共鳴と共に)出る。これを奏でるプロ・ミュージシャンは基本的に社会的地位の高い巨匠たち。だが作る側は庶民、それも決して豊かな生活をしているとはいえない階層だ。動物の皮を扱う職業を持つ者に対して、社会は決して暖かくない。

 主人公のピーターは、そのムリダンガム職人の息子。お得意さんの中には、大邸宅を持ち、数えきれないほどの弟子を誇る巨匠奏者のヴェンブもいる。ピーターはそのヴェンブの「神に奉納する」演奏に大感激し、ムリダンガム奏者になるべくヴェンブに弟子入りを申し出る。もともと音楽の才能に恵まれていたこともあって、幸いにしてそれは許可されたが、兄弟子たちにとってピーターは「違う階級のよそ者」、しかも「出るクイ」でしかない。親も「俺たちは作る側で、演奏できる側にはいない」という考えだ。アート・ブレイキーやボブ・マーリー(それぞれ実在したジャズ、レゲエの大御所)やヴェンブの写真の張ってある部屋で猛練習に打ち込むピーターを待ち受けていたのは誹謗中傷と陰湿な行為の数々だが、彼がとった行動は、まるで「北風と太陽」だ。

 自分はなにひとつやましいことはない、あえて志の低い奴らを相手に闘う必要もない、この才能にさらに磨きをかけ、修養をつみ、実力で平和に、暖かみのあるサウンドで、偏見を持っている者たちの外套を脱がせていくのだ。その姿勢がこよなく美しい。正攻法を貫くことこそ、卑怯への最大の対抗である。

 ピーター役のG.V.プラカーシュ・クマールは5歳で歌手デビューし、作曲家、ピアニストとしての一面を持つ。ヴェンブ役のネドゥムディ・ヴェーヌは俳優活動のいっぽう、ムリダンガムをはじめとする打楽器演奏家としてもキャリアを積んでいる。「2倍速」「3倍速」とアプローチを変えていくときの指先と楽器の鳴りはなるほど、俳優の余技ではなく、ミュージシャンそのものである。

 監督はラージーヴ・メーナン、音楽はA.R.ラフマーンが担当している。10月1日から東京渋谷シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開。

映画『響け! 情熱のムリダンガム』

10月1日(土)より、東京シアター・イメージフォーラム 他 全国順次公開

キャスト:G.V.プラカーシュ・クマール、アバルナ・バーラムラリ
原作・監督:ラージーヴ・メーナン
音楽監督:A.R.ラフマーン
配給:テンドラル
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