逸材「穂志もえか」の魅力が炸裂する不器用でポップでやるせない傑作『生きててごめんなさい』

 相当重めの、実に人間臭いストーリーだと思うのだが、その動静が実にポップに描かれているので胃もたれしないし、観終えた後、むしろ爽やかな印象すら抱いてしまった。オープニング近くのシーンとエンディングのシーンが、いわばビートルズの『プリーズ・プリーズ・ミー』と『ゲット・バック』のジャケット・デザインのように対になっていて、物語全体がひとつの輪のように感じられるのもいい。

 企画・プロデュースは藤井道人、監督は山口健人。主人公の出版編集者・修一を演じる黒羽麻璃央、居酒屋店員としては冴えなかったが文章力や企画力には抜群の才能を発揮する莉奈を演じる穂志もえか。このふたり、不勉強にして私は初見だったが、「間」というか声を出すタイミング、発声の柔らかさが似ていて、とても気持ちのいいコンビネーションを描いている。

 修一と莉奈の関係性をぐらぐら揺らす自己啓発系売れっ子の西川(といっても自分では一切原稿を書かず、編集者まかせ)の小憎らしさも物語の展開に刺激を加えてやまない。この“売れっ子先生”が修一から引き出す嫉妬がまた、とてもひとことやふたことでは言い表せないほど複雑で、男の弱々しさ、未練がましさをこんなに、しかもしめっぽくなく映画上で描くのも大変なテクニックではないかと感嘆してしまった。

 2月3日から東京都シネ・リーブル池袋、ヒューマントラストシネマ渋谷、アップリンク吉祥寺ほか全国公開。

映画『生きててごめんなさい』

2月3日(金)よりシネ・リーブル池袋、ヒューマントラストシネマ渋谷、アップリンク吉祥寺ほかにて全国順次公開

<キャスト>
黒羽麻璃央 穂志もえか
松井玲奈 安井順平 冨手麻妙 安藤聖 春海四方 山崎潤 長村航希 八木アリサ 飯島寛騎

<スタッフ>
監督:山口健人 企画・プロデュース:藤井道人 エグゼクティブプロデューサー:鈴木祐介 プロデューサー:河野博明、雨無麻友子 脚本:山口健人、山科亜於良 撮影:石塚将巳 照明:水瀬貴寛 録音:岡本立洋 美術監督:相馬直樹 美術:中島明日香 小道具:福田弥生 助監督:渡邉裕也 キャスティングプロデューサー:高柳亮博 制作プロダクション:スタジオねこ 配給:渋谷プロダクション 製作:「イキゴメ」製作委員会
JAPAN/DCP/アメリカンビスタ/5.1ch/107min
(C)2023 ikigome Film Partners

公式サイト https://ikigome.com/