世界最北端の駅に向かう真冬の寝台列車……。世界で17冠を得たメランコリックな傑作『コンパートメントNo.6』が日本上陸

 カンヌ映画祭グランプリなど、世界で17冠を得た作品『コンパートメントNo.6』が2月10日から新宿シネマカリテほか全国順次公開される。監督のユホ・クオスマネンは、『オリ・マキの人生で最も幸せな日』でカンヌ映画祭ある視点部門のグランプリを獲得した気鋭。本作はロサ・リクソムの同名小説が原案となっている。

 「コンパートメント」とは、「仕切りのある個室」のこと。物語のほとんどは凍えそうな真冬、世界最北端の駅に向かう寝台列車の中で繰り広げられる。主人公は、モスクワに留学中のフィンランド人の女学生ラウラ。彼女は恋人と古代のペトログリフ(岩面彫刻)を見に行く計画を立てていたが、結局ひとりで行くことになった。

 その「個室」の中で一緒になったのが、ロシア人男性労働者のリョーハ。粗暴で、ラウラ以上にタバコを吸い、酔っぱらい、言葉遣いも汚い。モスクワの学校で知的な生活を送っていたラウラにとって、リョーハは一種の脅威でもあったろう。が、これからの長距離、数日間を、ふたりは同宿しなければならないのだ。

 昭和40年代の少女漫画ならともかく、この映画では全くタイプの違うふたりがやがて恋仲に……ということにはならない。だがラウラは必ずしも「良い子」ではないし、リョーハには親思いの一面もある。途中、フィンランド人の青年が中に入り込み、物語にいっそう苦いニュアンスを加えていくあたりも見どころだ。

 1990年代の(おそらく初頭)が舞台ゆえ、携帯やSNSは登場しない。ただブラウン管のテレビや、当時流行していたであろうポップスは登場する。ネットに支配される前、ひとびとはこんな風に会話を交わし、時の流れにゆったりと身を置き、充分な内省もしていたのかと思えると、ちょっとした「時代劇」に接しているような気分にもなってきた。当時のラウラと同じくらいの年齢であるはずの今の学生たちに、特に観てほしいとも感じた。出演はセイディ・ハーラ、ユーリー・ボリソフ、ディナーラ・ドルカーロワ他。

映画『コンパートメントNo.6』

2月10日(金)、新宿シネマカリテほか全国順次公開

<出演>
セイディ・ハーラ、ユーリー・ボリソフ、ディナーラ・ドルカーロワ/ユリア・アウグ

<スタッフ>
監督・脚本:ユホ・クオスマネン
原作:ロサ・リクソム フィンランディア文学賞受賞「Compartment No.6」
後援:フィンランド大使館
配給:アット エンタテインメント
2021年/フィンランド=ロシア=エストニア=ドイツ/ロシア語、フィンランド語/107分/カラー/シネスコサイズ/原題:Hytti nro 6 英題:Compartment Number 6/映倫区分:G
(C) 2021 – Sami_Kuokkanen, AAMU FILM COMPANY

公式サイト https://comp6film.com/