本物のヒトラー、スターリン、チャーチル、ムッソリーニの映像をサンプリングした、いわくつきの一作『独裁者たちのとき』が、日本上陸

 音楽の世界でいうところの「サンプリング」を駆使しまくった作品と言っていい。登場人物はヒトラー、スターリン、チャーチル、ムッソリーニ。すべて本人だ。アーカイブ映像から彼らを取り出し、セリフも過去の手記や実際の発言から引用された。さらにいうなら、ディープフェイク(注:人物画像合成技術)やAIテクノロジーも使用していないとのことだ。

 監督・脚本は『太陽』で日本でも大きな話題を集めたアレクサンドル・ソクーロフ。カンヌ国際映画祭でのお披露目は中止となったが、2022年のロカルノ映画祭やセビリア国際映画祭では最優秀作品賞候補となり、2022年東京国際映画祭の正式出品作品となった。ソクーロフは2016年からアーカイブの調査を始め、完成までに6年を費やした。4人の登場人物は天国の門へ向かう旅の途中で、親し気に語り合ったかと思えば、悪態をつく。もちろん彼らが天国にいけるわけはないから、そこから大きなさまよいの旅が始まる。セリフ(ドイツ語、ジョージア語、英語、イタリア語)は声優があてており、もうひとつの重要キャラクター「キリスト」に関してはソクーロフが書いたアラム語(紀元前1000年頃からシリア、メソポタミアで話されていた)をしゃべる。

 独裁者たちに集まる溢れんばかりの群衆も含めて、私にとっては「異様」としか思えない風景が広がっているのだが、たかだか80数年前には、これが紛れもなく「リアルそのもの」だったのだと思うと、なんだか吐き気すらしてきた。もう死んで久しい独裁者たちの動きや語りや思想が、今を生きている者に、こんなにヴィヴィッドに不快感をもたらすのである。その意味でヒトラー、スターリン、チャーチル、ムッソリーニは、本物であった。4月22日からユーロスペースにてロードショー、全国順次公開。

映画『独裁者たちのとき』

4月22日(土)よりユーロスペースにてロードショー、全国順次公開

公式サイト
http://www.pan-dora.co.jp/dokusaisha/