絵画「尿する裸僧」が、すべての始まりだった。今、1910年代の鬼才が現代の空気とスパークする

 「なんなんだ、これは」という気分にさせてくれる絵画など、そうあるものではないが、村山槐多の油絵「尿する裸僧」にはびっくりした。どんなレトリックに頼るよりも、ただただ「びっくりした」と書きたい。しかも自画像という説があるという。小便している姿を自画像にする発想がとんでもないし、しかも、両手を合わせた状態で勢いよく放尿しているのだ。飛び散らないよう、きちんと片手を添えて、堅実におこなうのが立小便の作法というものではなかったか。そうした「くびき」からも村山槐多は自由なのだ。

 12月23日から新宿K’s cinemaで公開される『火だるま槐多よ』(出演:遊屋慎太郎、佐藤里穂、佐野史郎)の監督である佐藤寿保も、この「尿する裸僧」に大いに感銘を受けた。そして「現代人の眠っている潜在意識を呼び起こし感応させるのだ!!」とばかりに、作品に取り掛かることを決意したという。

 物語は、「尿する裸僧」に魅入られた法月薊(のりづき・あざみ)が、「村山槐多を知っていますか?」といろんなひとに街頭インタビューするところから始まる。“寺山修司が手掛けたドキュメンタリー番組「日の丸」へのオマージュなのかしらん”と思ううち、「私が槐多だ」と答える男が出てきて、しかも彼は特殊な音域を聴き取る能力を持っており、過去から届く槐多の声を繰り返し聴きとるうちに神経が侵食されていた……と書いてはみたが、内容に関しては、「わかろうとするな、感じろ!」というものであるように思った。若くして逝った槐多に呼応するかのように、若手役者たちが生き生きとふるまっているところが、なんとも爽やかな後味を残す。

 SATOL aka BeatLiveと田所大輔による音楽が、またかっこいい。20数年の生涯で、絵画のほか文筆でも生きた証を残した村山槐多だが、彼の生まれた時間があと70年ほどずれていたらインダストリアル・ノイズをやっていたんじゃないか、とすら思えてくる。

映画『火だるま槐多よ』

2023年12月23日(土)~2024年1月12日(金) 新宿K’s Cinemaにて公開 他全国順次公開

<キャスト>
遊屋慎太郎 佐藤里穂 工藤景 涼田麗乃 八田拳 佐月絵美 佐野史郎

<スタッフ>
監督:佐藤寿保 脚本:夢野史郎 音楽:SATOL aka BeatLive、田所大輔 撮影:御木茂則 照明:高原博紀 録音:丹雄二 美術:齋藤卓、竹内悦子 特殊造形・特殊メイク:松井祐一、土肥良成 衣装:佐倉萌 ヘアメイク:佐々木ゆう 編集:鵜飼邦彦 VFXスーパーバイザー:立石勝 カラーグレーディング:廣瀬亮一 題字:赤松陽構造 ドキュメント撮影・スチール:諸沢利彦 助監督:伊藤一平 特別協力:窪島誠一郎 特別美術監修:村松和明 プロデューサー:坂口一直、小林良二、村岡伸一郎 制作プロダクション:コンチネンタルサーカスピクチャーズ 配給:渋谷プロダクション 製作:スタンス・カンパニー、渋谷プロダクション 東京工芸大学芸術学部協力作品 助成:文化庁「ARTS for the future!2」補助対象事業
2023/日本/カラー/5.1ch/1:1.85/102分

(C)2023 Stance Company / Shibuya Production

公式サイト
https://hidarumakaitayo.com