「愛」の強さ・重さに性別の差などない! 実話をベースにした物語。『ファイアバード』公開

 どんなに優れたライタ―がどう書こうとも何かをとりこぼしてしまうのではないか。それほどに、さまざまな心情が錯綜する多層的な一作という印象を受けた。

 話の中心となるのは、冷戦時代ソビエト占領下のエストニアの軍隊で知り合った男性ふたり。かたや二等兵のセルゲイ、かたやパイロット将校のロマン。階級は異なるものの、共通の趣味を持つことから打ち解けあい、やがてそれが互いを愛しく思う気持ちに変わった。が、当時のソビエトでは同性愛は重罪だった。しかし法律なんかで愛を縛れやしねえ。とはいえ、禁じられた愛は速度を増せば増すほど破綻と紙一重だ。誰が見ているかわからないし、誰かに密告されたら命の危機だ。だが、好きあっているんだからしょうがない。「刹那」が、ふたりの心を燃やす。

 セルゲイは除隊し、俳優としての一歩を踏み出す。あったのは軍隊には求められない自由な空気だったろう。ロマンはパイロットとしての毎日を続けながら、多くの男性のような(と、あえてそう言う)こともして、「男らしく、家庭を大事にする軍人」としての面目を保つことになる。そこから、改めて細かに描き出されるふたりの心象風景がまた深く、切ない。同性間の結婚など想像だにしなかった時代、交際すら罪であった時代の話だけに、見る者は着地点がカタストロフィであることを識っている。だが、それでもふたりには幸せが輝いていてほしい。私はそう思いながら最後の最後まで観た。

 ロシアの俳優、故セルゲイ・フェティソフの回想録『ロマンについての物語』が、映画のベースであるという。ペット・ショップ・ボーイズのMVなども手掛けたペーテル・レバネが監督し、トム・プライヤーとオレグ・ザゴロドニーが主役を演じる。

★映画『ファイアバード』

2024年2月9日(金)より、新宿ピカデリー他にて全国公開

監督・脚色:ペーテル・レバネ 原作:セルゲイ・フェティソフ
2021年|エストニア・イギリス合作|英語・ロシア語|107分|1.85:1|5.1ch|DCP & Blu-ray|PG-12|配給:リアリーライクフィルムズ.
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