じわじわと怖さが迫る。異様な目の色や鮮血もそれなりにショッキングだが、この映画でいちばん恐怖を抱かせるのは「得体のしれない何かに徐々に巻き込まれていき、しまいには後戻りできなさそうな場所にまで行ってしまう人間の心理」ではないかと、私は感じた。加えて、いささか寓話めいた展開に「明日は我が身であっても、決しておかしくはない」とも思った。

7歳の娘・インを持つ若夫婦のクウィンとニンは、それなりにささやかな毎日を過ごしていたはずだ。が、経済的には決してよろしくない。そこで家を元医者の老人・ラトリーと40歳の娘・ヌッチの親子に貸し出し、若夫婦一家は郊外に移り住む。ここからの流れは、文章であれこれ書いていくよりも、実際の画面で各キャラクターの「声」「顔」を認識して観進めていったほうがよりエキサイティングに体感できるはずだ。ラトリーとヌッチは「郊外に移り住んだ」一家の「家を借りて住む」だけにとどまらず、ある力によって、その一家の主であるクウィンを洗脳してしまった。ラトリーとヌッチはカルト集団のメンバーだったのだ。大きなポイントは「三角形のタトゥー」である。
家を貸してあげたのに、どうしてこんなことにならなければならないのか、ニンにとっては忸怩たる思いだろう。が、カルト集団はクウィンを通じて、7歳のインをも、この「邪悪な計画」に巻き込もうとさらに歩みを進める。はたして洗脳された者はそこから戻ってこられるのか、クウィンとニンとインの家族に平和な日々は戻ってくるのか。手に汗握る展開が続いた後のエンディングに関して私が抱いた感想は、「落語のサゲみたいだな」ということ。それも強い皮肉を利かせた……。

年末公開の重要作であろう。監督は“家系ホラーの巨匠”ことソーポン・サクダピシット、出演はニッター・ジラヤンユン、スコラワット・カナロス、ペンパック・シリクン ほか。
映画『バーン・クルア 凶愛の家』
11月22日(金)より、シネマート新宿ほか全国順次公開
監督:ソーポン・サクダピシット
配給:ギークピクチュアズ
配給協力:ギグリーボックス
2023年作品/HOME FOR RENT/タイ映画/上映時間:124分/ビスタサイズ/字幕・翻訳:高杉美和
(C)2023 GDH 559 AND ALLY ENTERTAINMENT (THAILAND) CO., LTD.