「文字による交流」が強さを失うことはない。平成初期と令和を交差する2種類の恋。『大きな玉ねぎの下で』

 「大きな玉ねぎの下で」は、ロックバンドの爆風スランプが1985年のアルバムの中で発表したバラード。その後「大きな玉ねぎの下で ~はるかなる想い~」というタイトルでシングル・カットされ、今なお高い人気を持つ。私には「40年前の楽曲を、なぜ今映画のタイトルに?」という思いもあったのだが、物語を知ると、「ああ、これはこの曲でなくてはならなかったんだな」と痛感させられるばかり。親子の物語であり、恋や友情の物語であり、地方と首都圏の物語であり、全編にあふれるのは登場人物たちのやさしいまなざしだ。

 爆風スランプの歌の冒頭には「ペンフレンド」という単語が登場する。「文通相手のことだよ」と説明しても、「文通って何? 初めて知る言葉だ」という平成生まれや令和育ちも少なくないのではと思う。この映画では主人公がいる風景(現在)と、その親になる運命にあるひとたちの若き日の風景(昭和の終わりから平成の始め)が登場する。後者の描写がとても丁寧に描かれているのは、当たり前だがこれが「今のひと」に向けての作品であることにほかならない。インターネットはなく、通信手段は郵便が主体で、スマホではなくダイヤル式の黒電話で、音楽を聴くならレコードで、文字を読むなら紙媒体で、写真を撮るならフィルムカメラで。こういう時代は確かにあったのだし、その次世代、次々世代が2025年の若者・青年として生きている。

 「今」の時代にいる丈流(たける)と美優(みゆう)は、同じ店でバイトをしているのに会ったことがない。なぜならその店は、夜はバー、昼はカフェという二部制で、店員が入れ替わるからだ。だから連絡用の<バイトノート>が昼夜の店員にとっての重要な交流手段となる。これが「現代版の文通」ということになるわけだが、実はこのふたり、とあるきっかけで既に顔を合わせていて、ただお互いにそのことに気づいていないだけなのだ。そこから二転三転する甘酸っぱい、しかしそのすれ違いぶりはどこか落語のように滑稽ですらある物語から、ラストの大団円に至るさまは圧巻。親子で観に行って、終わった後にあれこれ語り合える作品という印象も受けた。監督は草野翔吾、主演は神尾楓珠と桜田ひより。

映画『大きな玉ねぎの下で』

2025年2月7日(金)Roadshow

<キャスト>
神尾楓珠 桜田ひより
山本美月 / 中川大輔 / 伊東蒼 藤原大祐 窪塚愛流 瀧七海 伊藤あさひ 休日課長 和田正人 asmi / 飯島直子 西田尚美 原田泰造 / 江口洋介

<スタッフ>
監督:草野翔吾 脚本:髙橋泉 ストーリー原案:中村航 音楽:大友良英
主題歌:asmi「大きな玉ねぎの下で」(Sony Music Labels Inc.)
製作プロダクション:ダブ
製作委員会:東映 U-NEXT ダブ ニッポン放送
配給:東映
(C)2024 映画「大きな玉ねぎの下で」製作委員会

公式サイト
https://tamanegi-movie.jp/