残りの人生を実り豊かに過ごすために、老夫人がとった行動とは。オゾン監督の最新作。『秋が来るとき』

 観終えて思い出したのはフランク・シナトラの『September of My Years』というレコードだ。発表は1965年。50歳を迎えたシナトラは、もう自分の人生は秋を迎えてしまった――つまり寿命の4分の3は使い切り、あとは「人生の冬」のみ――との思いを刻んだ。それから60年もの歳月が経ち、医療は進歩し、平均寿命は延びて、この映画の主人公・ミシェルは80歳にして、人生の秋から冬へ移行しようとしている。

 自然の豊かなブルゴーニュの田舎の家にひとりで住むミシェルの趣味のひとつに「山菜とり」があるようだ。キノコを採取しては図鑑と見比べて毒性の有無を確かめ、料理し、自分で食べたりふるまったりする。休暇で訪れる孫と会うことが楽しみで、孫もよくなついてくれる。だがその孫の母、つまりミシェルの娘は非常にそっけなく、ときに悪意が感じられるほどの対応をミシェルに対してする。そこで観る者は「どうしてこの娘は、実の母に、こんな態度をとるのか」と疑問を持つ。そこにテンポよく入り込んでくるのが「母のキノコ料理にあたる娘の姿」、さらに「ミシェルの過去の謎」。いつしかこの物語はミステリー、サスペンス的な要素も加味しながら、スピード感を徐々に増していく。

 ミシェルの親友である老夫人と、その息子の存在感も尋常ではなく、というより、そもそも登場人物の像が全員濃い。濃厚な登場人物を少数精鋭で集めているので、「この人、どんなキャラクターだっけ」とか「この人、前にどのシーンで出たかな、それとも初めて出てきたのかな」などの戸惑いを与えることもない。大船に乗った気持ちで、ただ、味わいたっぷりの人間ドラマに浸ればいいのである。

 監督・脚本はフランソワ・オゾン、出演はエレーヌ・ヴァンサン、ジョジアーヌ・バラスコ、リュディヴィーヌ・サニエ、ピエール・ロタンほか。

映画『秋が来るとき』

5月30日(金)より、新宿ピカデリー、TOHOシネマズ シャンテほか全国公開

監督・脚本:フランソワ・オゾン 共同脚本:フィリップ・ピアッツォ
出演:エレーヌ・ヴァンサン、ジョジアーヌ・バラスコ、リュディヴィーヌ・サニエ、ピエール・ロタン
2024年|フランス|フランス語|103分|ビスタ|カラー|5.1ch | 日本語字幕:丸山垂穂|原題:Quand vient l’automne
配給:ロングライド、マーチ
(C) 2024 – FOZ – FRANCE 2 CINEMA – PLAYTIME

公式サイト
https://longride.jp/lineup/akikuru/