ピアノ・トリオ「H ZETTRIO」のコンサート「Special Speed Music Night with H ZETTRIO」が遂に開催! 昭和の名曲をカバーした極上のプログラムで、観客を魅了

 世界最大のジャズ祭のひとつ“モントルー・ジャズ・フェスティバル”(スイス)に出演、リオデジャネイロオリンピックの閉会式で行なわれたオリンピック旗授受にも楽曲が採用された、群を抜くセンスと技量を持つユニット。しかも「笑って踊れる」、世にも稀なピアノ・トリオ“H ZETTRIO(エイチ・ゼットリオ)”が、11月6日に神奈川・パシフィコ横浜 国立大ホールにてコンサート「Special Speed Music Night with H ZETTRIO」を行なった。コロナ禍における二度の延期を経て、ついについに開催だ。

 コンサートタイトルに出てくる“Speed Music”という語句は、テレビ番組「SPEED MUSICソクドノオンガク」(毎週水曜日22:55~ tvkテレビ神奈川で放送)に因む。この番組は、2018年4月に“「国内における、時代を超えた名曲」をH ZETTRIOが、スピード感溢れる独創的豊かなアレンジでカバーし、多世代間の橋渡しとなって世代を超えた興奮と感動をお届けする”というコンセプトのもとスタート。以来、2年半以上にわたって、約120曲を届けてきた。そこで紹介した楽曲を生演奏で体感してほしいというのが、当コンサートのコンセプトだ。

 たくさんのオリジナル曲を持つH ZETTRIOだが、往年(主に昭和)の日本の楽曲カバーに的を絞ったライブ・プログラムは初めてだという。

 ぼくも「SPEED MUSICソクドノオンガク」が大好きで(演奏・アレンジはいうまでもなく、音質も、カメラワークも、撮影シチュエーションも、ドローンの使い方もいい)、なかでも「ギザギザハートの子守唄」「東京音頭」「港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ」には大きな驚きと感動を味わった。さあ、果たしてライブではどの曲が目の前に差し出されるのか、そう考えると、「検温も消毒もソーシャルディスタンスも、ドンと来い」と逞しい気持ちになれるのだ。

 舞台袖ではなく、ステージ後方から3人があらわれ、やがて始まったのは「氷の世界」(オリジナル・アーティスト;井上陽水)。森山威男カルテットの「サンライズ」を彷彿とさせる重厚なリフ、鮮やかなキメで突進、観客も身を乗り出して、これ1曲でもう、「ファンの前でプレイしたかった」演奏者の気持ちと、「H ZETTRIOをナマで聴きたかった」オーディエンスの気持ちがぶつかり合った感じだ。歓声を一切あげることができなくても、着席状態でも、こんなにライブの熱気というものは伝わってくるのだなと、うれしさが増す。

 横浜での公演なのだから「港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ」(オリジナル・アーティスト;ダウンタウン・ブギウギ・バンド)は来るだろうなあ、と思っていたら、「タッチ」と「天体観測」の間にやってきた。抒情的な2曲の間に置かれると、よけいブルージーでワイルドな感じが際立つ。原曲で宇崎竜童が言っているキメゼリフ(“あんた あの娘の なんなのさ”等)を、インストゥルメンタル・バンドであるH ZETTRIOは、みずからの楽器で語るように表現する。ドラムスのH ZETT KOUはテンションが高まりすぎたのか、ついマイクに向かって“あんた”と声を出してしまい、場内から笑いがもれる。

 「ギザギザハートの子守唄」も白熱そのものだった。キーボードからエレクトリック・ハープシコードのような音を導き出すH ZETT Mの魔物がとりついたかのような鍵盤さばきは、ぼくにいわせれば、オリジナル・アーティストのチェッカーズよりもよほどギザギザしている。藤井フミヤは“っ”や“ゃ”などちっちゃいひらがなのところを強調して歌っていたはずだが、H ZETTRIOは、ダダダ・ダダダ・ダダダダーという感じでフレーズをわけて疾走する。

 「おどるポンポコリン」は、まさに“大人も子どもも笑って踊れる” H ZETTRIOの真骨頂といった感じ。そこから「夜霧よ今夜も有難う」(オリジナル・アーティスト;石原裕次郎)につなげていくのは、このトリオ以外に不可能な技だろう。フィーチャーされるのは、コントラバスのH ZETT NIRE。番組でとりあげられた120以上もの“歌謡/Jポップ”をウッド・ベースひとつでこなしてきた、考えるごとに信じられない技量の持ち主だ。その彼がしっとりとメロディを奏でる。滑らかな低音を聴くうちに、ぼくのなかで、石原裕次郎が大きなブランデーグラスを手のひらと指の間に挟んで横浜の波止場で佇んでいる情景がダブってくる。ああ横浜、なんてロマンティックなんだ。

 ライブストリーミングは、H ZETT KOUのアディショナル・スネアが高らかに鳴り響く「SWEET MEMORIES」(オリジナル・アーティスト;松田聖子)で終了したが、会場限定のダブル・アンコールとして、人気ナンバー「炎のランニング」、11月1日に配信リリースされた「Middle」とオリジナル曲を披露。すごくて楽しい2時間は、あっというまに過ぎ去った。

 なお、このライブの「アーカイブ映像完全版」は11月15日(日)23:59まで視聴可能。配信チケットを購入済みの方はそのまま視聴でき、新規で配信チケットをお求めの方は「イープラスStreaming+」「LINE LIVE VIEWING」で11月15日(日)21:00まで購入できる。

ホームページ:http://worldapart.co.jp/hzettrio/

カメラマン名:Yuta Ito