パルムドールに輝く『麦の穂をゆらす風』、『わたしは、ダニエル・ブレイク』などで知られる巨匠監督ケン・ローチ。彼の初監督作品が、半世紀以上の時を経て、劇場公開される。原題は『Poor Cow』、邦題は荒木一郎ばりにロマンティックに『夜空に星のあるように』とつけられた。
公開時の1967年、監督は31歳。疑いなくUK映画のニュー・ウェイヴのひとりであったはずだ。過去・現在・未来にわかれたストーリー、登場人物が物語の中にいるんだと思ってばかりいたら、突如カメラ目線で見る側に向かって語りかけてくるメタ的演出など、興味深い点がいっぱい。ストーリーは重厚であり、主演のテレンス・スタンプとキャロル・ホワイトが演じるキャラクターも相当にクセが強い。「なんだなんだいったいどうしたものか」と思いながらも、ついストーリーに引き込まれている自分を発見するだろう。登場人物の着こなし、カラフルな街角などにも目を奪われる。
音楽には当時のポップ・ミュージックがふんだんに使われていて、個人的にはラヴィン・スプーンフルの「デイドリーム」の登場箇所に“まさかここで出てくるのか”と驚かされた。ドノヴァン・レイチの名曲「カラーズ」をテレンスが家族のために弾き語るシーンも、この時代のUKならではという感じがする。ロンドンの労働階級者暮らしの暗澹と、クリエイティヴで時にドリーミーな音楽の緩急にたっぷり浸ることができた。
映画『夜空に星のあるように』
2021年12月17日(金)より新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー
監督・脚本:ケン・ローチ 原作・脚本:ネル・ダン 製作:ジョセフ・ジャンニ 製作協力:エドワード・ジョセフ 撮影:ブライアン・プロビン 編集:ロイ・ワッツ 音楽:ドノヴァン 提供:キングレコード 配給:コピアポア・フィルム
出演:テレンス・スタンプ、キャロル・ホワイト、ジョン・ビンドン、クイーニ・ワッツ、ケイト・ウィリアムス
[原題:Poor Cow/1967年/イギリス/ヨーロピアン・ビスタ/カラー/102分]
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