ローレル・キャニオン地区は、1960年代アメリカ西海岸ロックの「トキワ荘」だったのか? ドキュメンタリー作、5月6日より公開

 “ROCKUMENTARY2022 極上のロック・ドキュメンタリー”と題し、ロックの歴史を彩ってきたミュージシャンや場所に因むドキュメンタリー3作品が劇場公開される。

 第3弾は、5月6日から新宿シネマカリテ、ヒューマントラスト渋谷ほかでロードショーの『ローレル・キャニオン 夢のウェストコースト・ロック』。名だたるミュージシャンが住み、素晴らしい創作をおこなった“西海岸ロックの聖地”、ロサンゼルスのハリウッド・ヒルズに位置するローレル・キャニオンゆかりのドキュメンタリーである。

 始まってすぐ、モダン・フォーク・カルテット(MFQ)の一員にして名音楽フォトグラファーとして知られるヘンリー・ディルツの撮ったフィルムの数々が紹介される。その時代の空気ごと切り取ったかのような貴重な瞬間の数々、身を乗り出さずにはいられない瞬間だ。以降、ザ・バーズやバッファロー・スプリングフィールドのメンバーがクロスビー・スティルス・ナッシュ・アンド・ヤングを結成していく過程、ママス&パパスの重要性、ラヴやザ・ドアーズを売り出したエレクトラ・レコーズの役割、才人集団の中でもひときわ突出していたジョニ・ミッチェルの異能ぶり、ザ・ビートルズがフォーク・ロックに及ぼした影響などが、豊富なマテリアルと共にテンポよく綴られていく。ローレル・キャニオンというエリアは、ロック版の、むちゃくちゃ規模の大きなトキワ荘だったのかもしれない。

 たいがいのロックの歴史本に書いてありそうなことも、当のミュージシャンが語ると(若くして亡くなったひとは当時の映像、そうでないひとは制作の頃に撮られた姿が中心)、説得力は増す。それにしてもザ・ドアーズのジム・モリソンは、ああいう人生を送るしかなかったのだろうか。誰か、あの破滅を止めることはできなかったのか。

 明るく創造的だったローレル・キャニオンの音楽シーンに、一気に暗い影が差すのは1969年のことだ。月面にアメリカ人飛行士が着陸し、東海岸でいわゆるウッドストック・フェスティヴァルが開催されたこの年(ヘンリー・ディルツもフォトグラファーとして参加)、西海岸ではサンフランシスコ近くで行われたローリング・ストーンズのコンサートで4人の死者が出て(オルタモントの悲劇)、ローレル・キャニオンからほど近い場所ではいわゆるチャールズ・マンソン・ファミリーによる連続殺人事件が起きた。前述“ラヴ”の初期メンバーであり、逮捕以来獄中から音楽作品をリリースしている(永久に社会復帰は認められないらしい)ボビー・ボーソレイユにまつわるエピソードには、背筋が凍る。光が輝かしければ輝かしいほど、影もまた途方もなく深く暗くなるのだ。監督はアリソン・エルウッド。

映画『ローレル・キャニオン 夢のウェストコースト・ロック』

5月6日(金)より全国順次公開

出演:ヘンリー・ディルツ、ジャクソン・ブラウン、ジョニ・ミッチェル、デヴィッド・クロスビー、グラハム・ナッシュ、スティーヴン・スティルス、ニール・ヤング、ロジャー・マッギン、ドン・ヘンリー

監督:アリソン・エルウッド 撮影:サミュエル・ペインター 作曲:ポール・パイロット 製作総指揮:アレックス・ギブニー、フランク・マーシャル
2020年/アメリカ/120分/ビスタ/ステレオ 原題:Laurel Canyon A Place In Time
提供:ジェットリンク 配給:アンプラグド
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