スリリングな一作である。私はかつて、ピリオド楽器(楽曲が作曲された当時の楽器)を用いたクラシックのコンサートに行ったことがある。ショパン自身が生きていた頃に体験していたかもしれない楽器の響きを可能な限り現代によみがえらせようという試みで、それは私にとってすこぶる新鮮な体験であった。この映画は、それを思い出させてくれた。

舞台となるのは、諏訪神社の総本社である諏訪大社。実にネーム・バリューのあるところだ。ここで、600年前に途絶えたという謎の「御室神事」を、(撮影時点での)今、再現して、カメラに収めようというのだ。その「神事」では、半地下の穴蔵にこもり、鹿の贄を食べて、豊穣を願う芸能を奉納していたのだという。実施期間は、冬の3か月。私は秋の諏訪を訪れたことがあるが、それでも夜は骨に染みるような寒さで、私が子供の頃を過ごした「上川盆地」を思い出させた。繰り返すが、「御室神事」は、冬の3か月間を費やしておこなわれるのである。
史料はごくわずかだから、そうなると豊かなイマジネーションが必要になる。「リヴァイヴァル」と「イマジネーション」はある種、対照的なものかもしれないが、それが掛け合わさると「超リアル」というしかない世界が生まれる。そして映画タイトルがなぜ『鹿の国』であるのかもうかびあがる。監督の弘理子は、ネパールやチベットにも取材した経験があるという。また、現代の民謡シーンを代表する歌手としても知られる才人・中西レモンの登場にも注目したい。
映画『鹿の国』
1月2日(木)より ポレポレ東中野
1月3日(金)より 岡谷スカラ座 ほか順次公開
監督:弘理子 プロデューサー:北村皆雄 語り:能登麻美子・いとうせいこう 音楽:原摩利彦
出演:中西レモン・吉松章・諏訪の衆
芸能監修:宮嶋隆輔 太鼓:塩原良 笛:愛蓮和美 撮影:毛利立夫・三好祐司・明石太郎・矢崎正和 高橋愼二・熊谷友幸・戸谷健吾・橋本吉剛・大須賀純也 整音・音響:斎藤恒夫 編集:髙橋慶太 EED:和田修平 監督助手:髙橋由佳 制作デスク:渡邉有子 制作協力:山上亜紀 CG:山田みどり 題字:吉澤大淳 劇場公開:遠藤協 イメージアート:大小島真木 宣伝デザイン:岩田和憲 宣伝:playtime
ガイドブック編集:石埜穂高 協力:諏訪圏フィルムコミッション 撮影協力:諏訪大社 製作・配給:ヴィジュアルフォークロア 助成:文化庁文化芸術振興費補助金(映画創造活動支援事業) 独立行政法人日本芸術文化振興会
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