オペラの響きが少年を救う。主演マエル・ルーアン=ブランドゥの歌声も見事な『母へ捧げる僕たちのアリア』公開

 人生、好きで好きでたまらないことを見つけるのも一つの才能だ。自分の周辺を考えても、◎◎バカ一代的なひとはみんな生き生きしているし、喜びを与えてくれる。この映画の主人公である14歳の少年、ヌールは、ひとつのことに打ち込む楽しさを今、発見したばかり。だがそこに容赦なく突きつけられるのは現実だ。

 彼は南フランスの、決して治安がよいとは言えない街の、古ぼけた公営住宅で3人の兄、昏睡状態の母と暮らしている。ヌールの母はオペラが大好きだった。少しでも元気になってもらおうとオペラを母に聴かせるうち、ヌール自身もオペラに魅せられてしまった。

 ある夏の日、教育奉仕作業の一環として彼は校内を清掃中だった。そこに聴こえてきた、歌の響き。あるクラスで、夏季レッスンが行われていたのだ。音楽に引き寄せられていくヌール、しかし兄たちにはどうにもそれが理解できない。学校どころではないのに、ましてや歌どころではないだろう、働け、ということだ。が、ヌールはもう、熱中できることを発見してしまったのだ。オペラ歌手のサラとの出会いで彼の潜在能力はさらに発揮され、兄たちもしだいに弟の「音楽への傾倒」を暖かく見守るようになる。

 ヌールを演じたマエル・ルーアン=ブランドゥはオーディションによって選ばれ、劇中の歌も、吹替ではなく彼自身のものであるという。ソプラノ歌手ドミニク・モアティの指導を受けた、美しい歌唱にもじっくり耳を傾けたい。監督・脚本ヨアン・マンカ。2021年バリャドリッド国際映画祭作品賞、2021年カンヌ映画祭ある視点正式出品作。6月24日よりシネスイッチ銀座ほかで全国公開。

映画『母へ捧げる僕たちのアリア』

6月24日より公開中

監督・脚本:ヨアン・マンカ
出演:マエル・ルーアン=ブランドゥ、ジュディット・シュムラ、ダリ・ベンサーラ、ソフィアン・カメス、モンセフ・ファルファー
配給:ハーク 配給協力:FLIKK 字幕翻訳:手束紀子 後援:在日フランス大使館、アンスティチュ・フランセ日本
【2021年/フランス/フランス語/108分/カラー/スコープサイズ/5.1chデジタル/原題:La Traviata Mes freres et moi】
(C)2021 Single Man Productions Ad Vitam JM Films

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