80年代ニューヨークのヒリヒリするようなヤバさを刻む前衛SF映画が、レストア版として公開

 第4回目となる「奇想天外映画祭」が、9月17日から10月7日にかけて東京・新宿K’s cinemaで行われることが決定した。今回は11本が選ばれ、その中にはジェーン・バーキン主演『ワンダーウォール』(音楽;ジョージ・ハリスン)、ロベール・オッセン主演『殺(や)られる』(音楽;アート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズ、作曲;ベニー・ゴルソン)など音楽ファン垂涎のものもある。そして一番の目玉と目されているのが、スラバ・ツッカーマン(旧ソビエトに生まれ、イスラエル生活を経て、1976年ニューヨークへ)が監督した『リキッド・スカイ』の4Kレストア版である。

 舞台はニューヨーク、制作は1982年。これだけで“ヤバさ”が伝わってこよう。パンクは健在、ディスコ、テクノ、ニュー・ウェイヴも盛り上がっていて、それらとフリー・ジャズが結びついた動き(ジェイムズ・ブラッド・ウルマーやロナルド・シャノン・ジャクソン等)も顕在化していた時代。レベル・ミュージックとしてのレゲエが光り輝き、ヒップホップが産声をあげていた時代。クラウス・ノミやバスキアが新時代の覇者だった時代。『リキッド・スカイ』は、そんな空気を目いっぱいつめこんだ作品のひとつといっていいはずだ。

 主演のアン・カーライルはマーガレット(女性)とジミー(男性)を好演(デヴィッド・ボウイ『アラジン・セイン』風メイクにも注目)。だが彼女はUFOによって支配されている。宇宙人の“エネルギーの源”は、地球人が得たエクスタシー。マーガレットは地球人とセックスするごとに、相手の快感を吸いとっていく……と書いても「何が何やら」という感じだが、とにかくずっと酩酊しているようなストーリーや画であり、そこに妙に硬いシンセサイザーのサウンドが絡んでいくのが誠にシュール。

 粉を載せたスプーンを暖めて、腕を思いっきり締め上げてのドラッグ注射シーンもあり、「ヤバかった時期のニューヨーク」(藤子不二雄は歩道のド真ん中を縦になって歩いたらしい。道路側を歩くと車の窓から手が出てひったくられ、建物に近いほうを歩くとドアから人が出てひったくられるかもしれなかったからだそう、という話を80年代の「コロコロコミック」で読んだ記憶がある)を疑似体験できる。

 ほか、「奇想天外映画祭」にはこの4月に生誕110年を迎えたジョルジュ・フランジュ監督の『顔のない眼』、『赤い夜』、ブラジルのヌーベルバーグ“シネマ・ノーヴォ”の旗手であるグラウベル・ローシャ監督の『狂乱の大地』などもノミネートされている。

映画『リキッド・スカイ 40周年記念4Kデジタル修復版』

「奇想天外映画祭2022」新宿K’s cinemaにて2022年9月17日(土)~10月7日(金)開催決定!

監督:スラヴァー・ツーカーマン
出演:アン・カーライル、ポーラE・シェパード、ボブ・ブラディ
アメリカ/1982年/112分/カラー/DCP(※上映は原板から変換した2K上映)
(C)Slava Tsukerman

奇想天外映画祭2022 公式サイト