生きている者/臨死状態の者/亡くなってしまった者の間に橋を架ける、約150分の意欲作

 「この世」と「あの世」は決して分断されておらず、その間には、いくつもの層がある。そうした層にとどまってしまったひとたちの物語という印象を、個人的にはこの映画から受けた。

 登場する中には、2011年3月11日で時間が止まってしまった者もいる。必死に高いところに駆けあがったり、逃げ惑う誰かを助けようとする途中、一瞬で津波に飲み込まれてしまった人々……まだ「死」を認識することができていないのだろうか、彼らは震災前の年恰好で、「天空」と「地上」の間に存在する。

 物語の舞台は、「天空」と「地上」の間に存在する「三ツ瀬町」。ここには老舗旅館「天間荘」がある。長女のぞみ(大島優子)、次女かなえ(門脇麦)、大おかみの恵子(寺島しのぶ)などが忙しくもつつましく暮らしている中に、突如やってきたのが、「たまえ」という女性(のん)。話をきいてみると母親違いの三女であるという。恵子は別れた夫がヨソで子供を作っていたことに驚き、思い出し怒りをして、たまえに強くあたるが、たまえはコミュニケーションの才能をのぞみ、かなえ、恵子以上に持ちあわせていた。間もなくたまえは、宿泊客の優那(山谷花純)や玲子(三田佳子)のお気に入りにもなっていく。

 だが「地上」でのたまえは、交通事故にあって臨死状態になったまま。このまま天間荘に居つくとなると、それは現世での死を意味する。このまま天間荘で死んだ者たちと一緒にやっていくのか、それとも現世に戻って死者のレガシーを自らの体に生かしつつ生活してゆくのか。

 死を選ぶか、もうちょっと生きてみようと思い直すか。それはスクリーンを超えて、観る者につきつけられる問題であり、作品を観終わった後も、心の中に深い残響がこだますることだろう。

 カメオ出演のラインナップも、ものすごく豪華で、日本が誇るグルーヴ・マスター、つのだ☆ひろも登場する。原作・高橋ツトム、監督・北村龍平。10月28日より全国ロードショー。

映画『天間荘の三姉妹』

10月28日(金)全国ロードショー

<キャスト・スタッフ>
のん 門脇麦 / 大島優子
高良健吾 山谷花純 萩原利久 平山浩行 柳葉敏郎 中村雅俊(友情出演)/三田佳子(特別出演) 永瀬正敏(友情出演) 寺島しのぶ 柴咲コウ?

プロデューサー:真木太郎
監督:北村龍平
脚本:嶋田うれ葉
音楽:松本晃彦
原作:高橋ツトム『天間荘の三姉妹-スカイハイー』(集英社 ヤングジャンプ コミックス DIGITAL刊)
配給:東映
制作プロダクション:ジェンコ
製作:『天間荘の三姉妹』製作委員会
(C)2022 高橋ツトム/集英社/天間荘製作委員会
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