おぞましい一作と言っていいだろう。ミソジニー・オブ・ザ・ワールド、あるいはマチズモ・オン・ザ・ランといった感じだ。それに、「ロイヤル」(高貴)な「ホテル」など、どこにも出てこない。
ハンナとリブは親友同士。旅行で訪れたオーストラリアで金欠となり、ひとまずバーテンダーとして小金を得ようということになった。そのパブの名こそ、「ロイヤルホテル」。荒涼とした中にポツンとあり、その周りに住んでいる者にとっては、社交場的なものはここしかなく、若者は都会に出てしまうのだろうか、なにかに絶望しているような、あるいは力の発揮の仕方を間違えているような、中高年男性がぞろぞろとやってくる。どうにか均衡が保たれているのは、パブの店長にそれなりの威厳があるからのようにも見えるけれど、彼はほぼ酒乱である。
そうしたシチュエーションに、土地の現状などまったく知らない若い女性ふたりが、飛んで火にいる夏の虫のごとく、やってきた。常連客から見れば「よそ者」「エサ」である。淀んだ空気のおんぼろパブに飛び交うのはセクハラ、パワハラ、そしてミソジニー丸出しの発言の数々。だがそうした女性全般への悪感情(と思われる)と、目の前にいる生身の若い女性を思い通りにしたいという欲求は、彼らの中では別物のようで、それがまたハンナとリブの精神を擦り減らせていく。「今こそ逃げるチャンスだ」と告げたくなるシーンもあるが、彼女たちはそこを離れようとしない。だいたい、アルバイトの報酬が支払われた形跡もないのだ。そして、ここで闘わなければ生きた甲斐がない、という声がきこえてきそうなラスト・パートへ突入する。主演はジュリア・ガーナーとジェシカ・ヘンウィック、監督・脚本はキティ・グリーン。
映画『ロイヤルホテル』
7月26日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開
監督・脚本:キティ・グリーン 脚本:オスカー・レディング プロデューサー:リズ・ワッツ、エミール・シャーマン、イアン・カニング 撮影:マイケル・レイサム 作曲:ジェド・パーマー
出演:ジュリア・ガーナー、ジェシカ・ヘンウィック、ヒューゴ・ウィーヴィング、トビー・ウォレス、ハーバート・ノードラム
2023年/オーストラリア/91分/2.39:1/英語/原題:The Royal Hotel/カラー/5.1ch
字幕:田沼令子 配給・宣伝:アンプラグド
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