ディーラーが「足を洗う」ために行う最後の「大悪事」を、登場人物と同じ時間軸で味わう『ナイトライド 時間は嗤う』

 この映画に関しては、第一に、スティーヴン・フィングルトン監督のコメントを紹介するのが最良の策であろう。

「このプロジェクトで最も気に入っている点は、撮影終了と同時に映像がファイナルカットになっていることである。余計な手を加えて台無しにはできない。一般的にカットしなければ観客が興味を失うという誤解があるが、実際はその逆だ。」

 ライブや舞台のように、あるいはレコーディングの手法でいうとダイレクト・カッティングのように、「物語の演者と見る者に同じ時間が流れてゆく」のが、この『ナイトライド 時間は嗤う』の特色だ。実際のところはストーリーの展開上、六夜にかけて収録されたとのことだが、描かれているのは一夜のうち、90数分を切り取ったもの。ロケ自体はロックダウン中、アイルランドのベルファストで敢行されたという。

 主役となるのはドラッグ・ディーラーのバッジ。だが彼はこの職業から足を洗い、恋人ソフィアと共に自動車のカスタム・ショップを始めようとしている。その資金を得るために、最後の「悪事」を働くプロセスがこの映画にある。バッジはほとんどの場面で、運転しながらハンズフリー通話をして、指示を出していく。電話の向こうの相手たちは、こちら観客には見えない。だからバッジの表情や、相手の受話器越しの声を頼りに、自分の頭でその人物像を作っていくことが求められる。

 時おりバッジは右ハンドルの車を止める。そこで会う人物(これは観客にも見える)、出くわすアクシデントが、次なる展開の羅針盤となる。バッジ役にモー・ダンフォード、恋人ソフィア役にジョアナ・リベイロ、闇金業者のジョーにスティーヴン・レイが扮する。11月18日より、ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿武蔵野館ほか全国ロードショー。

 2022年度 IFTA映画&ドラマ賞 最優秀主演男優賞受賞作品、2022年度 ダブリン国際映画祭 ガラ&スペシャル・プレゼンテーション出品作品、2021年度 インド国際映画祭 ワールド・パノラマ・セクション出品作品、2021年度 トロント国際映画祭 インダストリー・セレクト出品作品。

映画『ナイトライド 時間は嗤う』

11月18日(金)より、ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿武蔵野館ほか全国ロードショー
配給:ポイント・セット
(C)2021 NIGHTRIDE SPV LTD

公式サイト
http://mid-ship.co.jp/nightride/