夢のある一作だ。“現代を生きる女性学者”と“3000年ものあいだ幽閉されていた孤独な魔人”が時空を超えて語り合うという物語……と書いても奇想天外な感じがして何が何やらかもしれないが、見ていくうちに、これが、ストンと心に入ってくる。知的で明晰な女性学者にものすごくロマンティックな一面があったり、魔人が礼儀正しく紳士的だったり。時代が違おうと、生き物としての類が異なろうと、気持ちひとつでここまで打ち解けることができるのだと、教えを受けたような気分だ。
ベースとなっているのはイスラムの説話集「アラビアンナイト」であるとのこと、残念ながら筆者は不勉強にして詳説できる能力はないのだが、徳の高いことを書いてあるんだろうなあという想像は十二分にできた。
女性学者にはティルダ・スウィントンが、魔人にはイドリス・エルバが扮している。このふたりだけの会話シーンが、映画中、かなりの部分で繰り広げられているのだが、これが面白く、飽きさせない。とくにイドリスの深みのあるバリトン・ヴォイスが、この作品の聴覚的魅力を大いに高めているのも間違いのないところだろう。エッセンスを心得た翻訳についても称賛したい。監督ジョージ・ミラー、2月23日より全国公開。
映画『アラビアンナイト 三千年の願い』
2月23 日（木･祝） TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
監督：ジョージ・ミラー
脚本：ジョージ・ミラー、オーガスタ・ゴア
原作短編：「ザ・ジン・イン・ザ・ナイチンゲールズ・アイ」（A・Sバイアット著）
【2022 年｜オーストラリア・アメリカ合作｜英語・トルコ語｜カラー｜スコープサイズ｜5.1ch｜108 分｜字幕翻訳：松浦美奈｜映倫：PG12】
配給：キノフィルムズ
提供：木下グループ
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