育児を通じて、人の暖かみを知る。「開眼」した父親と、3歳の娘の物語。『この小さな手』が公開

 観る者の性別、既婚者か独身か、誰かの親であるか否かで、感じ方が大いに変わってくる映画であろう。が、作品全体から放たれる眼差しは、春の日差しのように穏やか、そして暖かい。

 原作は「きらきらひかる」等の代表作を持つ郷田マモラの同名コミック。イラストレーターの和真、妻の小百合、3歳の娘・ひなを中心に描かれる。和真は育児を小百合にまかせっぱなしで、神経質なところもあって、ひなと良好な関係を築いてきたとはいえない。だが小百合が事故で重傷を負ったことで、日常が一変する。いままで留意したことすらなかったであろう「育児」に、和真は直面せざるを得なくなった。そこから日常がどんどん変わっていく。

 週刊誌のイラストレーターとしての仕事をしながら、自宅←→娘を預けた児童養護施設を行き来し、施設のスタッフや、同年代の子どもたちの親とコミュニケーションをとり……和真は、いやがおうにも「自分の世界(範囲)」を広げざるを得なくなった。

 大きな問題は、娘との距離だ。和真はそれまで、まったくといっていいほどひなに構わず、ひなも和真に甘えてくることがなかった。自分に対してうちとけようとしない、他人行儀な娘に向き合ったとき、和真の中に眠っていた「父親としての本能」が明らかに覚醒し、そこから物語のスピード感が増す。

 和真役は、「仮面ライダービルド」シリーズの武田航平。中田博之監督の長編初作品にもあたる。個人的には大家の一家の優しさも滲みた。4月8日より東京・渋谷ユーロスペース他、全国で順次公開。

映画『この小さな手』

4月8日(土)よりユーロスペース他全国順次公開
配給:フルモテルモ
(C)映画「この小さな手」製作委員会

公式サイト
https://holdyourhand-movie.com/