鬼才が捉え、放棄した「1968年の揺れ動くアメリカ」を今、スクリーンで体験。『1PM-ワン・アメリカン・ムービー』公開へ

 いわくつきの一作とは、こうしたものをいうのだろう。

 1968年秋、フランスの映画監督ジャン=リュック・ゴダールはアメリカ・ニューヨークにやってくる。五月革命が起こった国の映画人が、キング牧師の暗殺がまだ残る国を訪れたのだ。カメラを回すのはリチャード・リーコックとD・A・ペネベイカー。60年代初頭にフランスで「いっしょに映画作りをしよう」と語り合ったことが、ついに現実化に向かって動き出したのだ。タイトルは『1AM』(『ワン・アメリカン・ムービー』)。

 だが、結論からいうと、うまくいかなかった。残された素材をもとに、ペネベイカーが編集した作品こそ、4月22日より新宿・K’s cinemaほか全国順次公開される『1PM-ワン・アメリカン・ムービー』である。

 どこの何に興味を持っているかで、おもしろどころも変わってくると思うが、私が身を乗り出したのは次の箇所だ。ひとつ:ブラックパンサー党のエルドリッジ・クリーヴァーの談話。彼は68年中に同党を脱退するのだが、この映画に収録されている発言は「ものすごい熱意をもって党に属している中の人」そのものだ。ふたつ:ハーレムで行われる詩とフリー・ジャズのセッション。詩を朗読している人物はリロイ・ジョーンズ(アミリ・バラカ)であるというし、声はまさしく彼そのものだが、私が会ったことのあるあれこれジョークを飛ばす好々爺の彼とは全然違う。笛や太鼓で合流するメンバーの氏名の記載がないのが残念だが、当時のブラック・ジャズの先端にいるひとたちである可能性は充分にある。みっつ:ラストを飾るジェファーソン・エアプレインのサイケデリック・ロック。PAが未発達の時代、アンプを大量に背後に積んでのパフォーマンスだ。ヴォーカルのグレイス・スリックはもちろん、ドラマーのスペンサー・ドライデンのアップもあり。ビートルズが英国で行った「ルーフトップ・セッション」に先立つ、屋根の上でのロックである。

 『1PM-ワン・アメリカン・ムービー』は、ゴダールがニューヨーク大学の学生たちとおそらく午後か夕方に『中国女』をめぐって議論を交わす姿を捉えた短編『ニューヨークの中国女』(68年4月4日、キング牧師はこの日の午後6時にメンフィスで暗殺された。時差はニューヨークが+1時間)との同時上映。さらに、67年制作のヴェネツィア国際映画祭・審査員特別賞受賞作品『中国女』も特別上映される。

映画『1PM-ワン・アメリカン・ムービー』

2023年4月1日(土)より新宿・K’s cinemaほか全国順次公開!

配給:アダンソニア、ブロードウェイ
配給協力:ブライトホース・フィルム
字幕:寺尾次郎
デザイン:千葉健太郎
協力:仙元浩平
(C)Pennebaker Hegedus Films / Jane Balfour Service

公式サイト
https://www.ks-cinema.com/movie/1pm/