非暴力で自分の人生を逆転させていく3人の王子を描く、古代・中世・18世紀を駆けるアニメ作品『古の王子と3つの花』

 人間の心は、相手を恋い慕う気持ちは時代や場所によって変わりゆくものなのか、それとも普遍的なものなのか。

 そんな問いを穏やかに突き付けられているような気分を覚えた。3つのストーリーからなるオムニバス形式のアニメなのだが、不思議なまでの統一感があり、観ているうちにどんどん惹かれてゆく。

 第1話「ファラオ」は、古代の話。2022年夏にルーヴル美術館で開かれた「二つの土地のファラオ:ナパタ王家の叙事詩」展のために制作されたという。私はジャズを長く聴いており、アメリカの黒人ミュージシャンが創作の源をエジプトやアフリカやカリブに向けることがあるのを知っている。よって「クッシュ」はディジー・ガレスピーの、「上エジプトと下エジプト」はファラオ・サンダースの楽曲を通じて認識していて、「ラー」という概念に関してもサン・ラー(ピアニスト、バンドリーダー)を通じて馴染みがある。よってこの章は、ジャズ好きに特に観てもらいたいと思った。ほか、“蓮”が重要なファクターとなる。

 第2話「美しき野生児」の時代設定は中世。パリからおよそ400km離れたオーベルニュ地方での物語だ。アニメ画像はさらに鮮やかなものとなり、洗練された景色と、野性味あふれる王子が快いコントラストを描く。薬用にも使われてきた植物“ゲンチアナ”が重要なファクターとなる。

 第3話は18世紀のトルコに飛んで「バラの王女と揚げ菓子の王子」。西洋と東洋の交差点に位置するこの地のエキゾティシズムが、繊細なタッチのアニメによって描かれる。重要なファクターとなる植物は、“バラ”。

 監督は、フランス屈指のアニメーション監督であるミッシェル・オスロ。

映画『古の王子と3つの花』

7月21日(金)よりYEBISU GARDEN CINEMA、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー
監督・脚本:ミッシェル・オスロ
声の出演:オスカル・ルサージュ クレール・ドゥ・ラリュドゥカン(コメディー・フランセーズ) アイサ・マイガ
2022年/フランス・ベルギー映画/カラー/1.89:1/5.1ch/83分
原題:Le Pharaon, le Sauvage et la Princesse
日本語字幕:橋本裕充
配給:チャイルド・フィルム
後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ
(C)2022 Nord-Ouest Films-StudioO – Les Productions du Ch’timi – Musee du Louvre – Artemis Productions

公式サイト
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