離れ離れになった愛する人とふたたび巡り合えるのだろうか? 実話をもとにした重厚な一作『アウシュヴィッツの生還者』

 アウシュヴィッツの収容所から生還したハリー・ハフト(1925~2007)の半生について、息子のアラン・スコット・ハフトが綴った文章を基に映画化。『レインマン』でアカデミー賞監督賞やベルリン国際映画祭金熊賞に輝いたバリー・レヴィンソンが監督し、ハリー・ハフトを名優ベン・フォスター(『インフェルノ』)が演じる。

 アウシュヴィッツから生き延びたボクサーを描いた映画ということで、タデウシュ・“テディ”・ピトロシュコスキ(1917~1991)を描いた『アウシュヴィッツのチャンピオン』(先に日本公開)と対照しながら鑑賞するのも一興だと思う。差別や虐待の言うまでもないひどさ、戦争というものが持っているゆがみ、そこからサヴァイヴしようとする並外れた「力」、強引に引き離された愛する人(この女性“レア”の存在が、彼の人生の原動力となる)の生死すらわからないまま過ごす日々の重さ。さまざまな要素がこちらの心に訴える。

 ハリー・ハフトは強制収容所を脱走し、第二次世界大戦後、ドイツに駐留していた連合軍に保護されて、47年1月にミュンヘンで行われたアマチュア・ボクシング・コンテストで優勝、翌48年にアメリカのニュージャージー州に移り住んだ。そして49年7月、ロッキー・マルシアノと一線を交えることになる。映画ではこの時期の彼が取り組んだ熾烈なトレーニングや、作戦の方法なども詳細に描かれる。といってもロッキーに負けた後、彼は拳闘の世界を去り、アメリカで知り合った女性と結婚して食料品店主になってしまうので、以降は「夫」「父親」としての姿を中心に描かれる。

 もう二度と強制収容されることがないと心ではわかっていても、寝ている間にフラッシュバックがやってきたり、大きな爆裂音を耳にしておびえたり。ナチスは永遠に修復不可能な傷跡を彼に残した。が、それでも生きていこうとする不屈の男がハリーなのだ。

 使用されている音楽はルイ・ジョーダンの「チュー・チュー・チ・ブギ」(46年)や「G.I.ジャイヴ」(44年)、ナット・キング・コールの「ルート66」(46年)等。途中、ハリーが楽しそうに「ルート66」を口ずさむシーンに安らいだ。

映画『アウシュヴィッツの生還者』

8月11日(金・祝)新宿武蔵野館ほか公開

監督:バリー・レヴィンソン
出演:ベン・フォスター、ヴィッキー・クリープス、ビリー・マグヌッセン、ピーター・サースガード、ダル・ズーゾフスキー、ジョン・レグイザモ ダニー・デヴィート
2021/カナダ・ハンガリー・アメリカ/英語・ドイツ語・イディッシュ語/129分/カラー/スコープ/5 5.1ch/原題:THE SURVIVOR/字幕翻訳:大西公子/映倫区分:G
提供:木下グループ
配給:キノフィルムズ
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