知られざるリアルを知るために始めた探索の果てには何が待っているのか? 映画『コントラ』3月20日より上映

 こんな映画も文章も、いまだかつて体験したことがない。内容はとんでもなく新鮮なのに、映りこむ風景は日本昔話の中から飛び出してきたようにトラディショナルだ。舞台となっているのは日本の田舎町。映像はモノクロ、時間は140分余り。セリフは抑えに抑えている。なのに眠くもならないし、まったくダラケ感も与えない。心のひだにじんわり沁みてくるような、だけど常に予想の斜め上を行くかのような展開に、個人的には200分あってもいいのに、と思った。つまり、興味深すぎるのだ。

 従軍した祖父が第二次世界大戦末期に遺した日記を、父と二人暮らしの女子高校生が発見したことから物語が始まる。その日記には文章だけではなくて、昭和20年当時の新聞記事や祖父の書いた上手なイラストも盛り込まれていた。彼女がそのページをくわえたばこで開いていた頃、別の場所ではボロボロの衣服を着た坊主頭の男が、無言で後ろ向きに早歩きしていた。

 ある日、父と女子高校生は、いとこの食事会に呼ばれる。そのいとこは一種の成り上り者で、どこか不器用な父をなめているところがある。感情のぶつかりあいがあり、父はアルコールを体内に残したまま娘をバンに乗せて帰宅する。途中、バンは後ろ向きに歩く男を轢いた。男は幸い命を取り留めたが、その後の展開は本当に丁寧に描かれていて、ぼくなど「そうだったのか」とうなずきっぱなしだったけれど、とにもかくにも、父・娘・男の間でなんとも奇妙な、クスリとさせられる人間関係が生まれる。

 これが焦点Aだとすると、祖父が日記の中で田舎町の森の中に宝の存在を示す記述を残していたことは焦点Bになろうか。娘は、宝が何であるかぜひつきとめたいと、嫌いな学校を堂々とサボって森の中に入り込む。宝の存在は父、いとこ(強面の若者と徒党を組む)も知るところとなり、さあどうなるか—–雄大なスケールで綴られるラスト・シーンまで、まばたきすら惜しくなる。

 監督はインド出身・日本在住のアンシュル・チョウハン、主演は円井わん(『タイトル、拒絶』)、父役は山田太一、謎の男役は間瀬英正。エストニアのタリン・ブラックナイト映画祭でグランプリと最優秀音楽賞、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭の国内コンペティション長編部門で優秀作品賞を受賞した作品だが、今度は日本の映画好きを話題の渦に巻き込んでほしい、そう願わずにはいられない。3月20日から東京・K’s cinemaほか、全国順次公開。

映画『コントラ』

3月20日(土)、あなたは時空をリバースする。
K’s cinemaほか全国順次公開

A Kowatanda Films Production
協力会社:株式会社アティック&株式会社ワールドP.S. 制作&監督:ANSHUL CHAUHAN(アンシュル・チョウハン) 制作総指揮:海老原信顕 コープロデューサー:茂木美那 / 山田太一 脚本:ANSHUL CHAUHAN(アンシュル・チョウハン) 編集:RAND COLTER(ランド・コルター) 撮影監督:マックス・ゴロミドフ 音楽:香田悠真 撮影助手:ピーター・モエン・ジェンセン 音響:ロブ・メイズ 配給:リアリーライクフィルムズ 配給協力:アルミード / Cinemaangel

出演:円井わん 間瀬英正 山田太一 清水拓蔵

(C)2020 Kowatanda Films

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