2020年のベルリン国際映画祭でベルリナーレカメラ(功労賞)を受賞したウルリケ・オッティンガー監督の“ベルリン三部作”と呼ばれる作品が8月19日より東京・渋谷ユーロスペースほか全国順次上映される。内容は、『アル中女の肖像』(1979年)、『フリーク・オルランド』(1981年)、『タブロイド紙が映したドリアン・グレイ』(1984年)。『アル中女の肖像』と『タブロイド紙が映したドリアン・グレイ』は、日本の劇場では初めてのロードショーになるという。今回はここから『アル中女の肖像』をとりあげたい。
英語タイトルは『Ticket of No Return』。そうなると思い浮かぶのはマリリン・モンローが登場した『River of No Return』(帰らざる河)、たしかにこの主人公は「河の水がすべて酒であったなら」と思うタイプであろう。演じるタベア・ブルーメンシャインは、西ドイツのアート~ファッションシーンのアイコン的存在であるという。なるほど、酒を飲むときのコスチュームも、口とグラスの角度も、グラスを投げつける時の姿勢(フォーム)も、いちいち研ぎ澄まされている。とにかく朝昼夜と、外でも中でも飲んでいるので、それは「善」か「悪」かといえば、「悪」だ。
その「悪」を引き立たせるのが、これまたおしゃれなコスチュームでまとめた3人の会話好きの女性たち。良識ぶったことを、ちょっと気取ったアクセントで、タビアに聞こえるように言う。「ひとりではなんにもできないひとたちが、束になったときの、あの、なんともいやらしい強み」を発揮してくれるのだが、この3人が盛り上がれば盛り上がるほど、タベアのクールネスが浮かび上がる寸法だ。
すでに歌手としてある程度の成功を収めていたものの、欧州パンクの台風の目となるにはまだ少々の時間を必要としたニナ・ハーゲンの声と姿が拝めるのも収穫だった。最初に歌うのは、ひょっとして「マイ・フェア・レディ」の中のあの曲の替え歌か? さらに後半、野外でドラムだけをバックに歌うニナが無類に頼もしい。70年代後半、東と西にわかれていたころのドイツの風景も満喫できる。オッティンガーらと共に「ニュー・ジャーマン・シネマ」を牽引したといっていいR.W.ファスビンダー監督や、アメリカのリチャード・リンクレイター監督も称賛したといういわくつきの一作がついに日本の劇場で観ることができるとは、実に喜ばしい。
特集上映『ウルリケ・オッティンガー「ベルリン三部作」』
8月19日(土)より渋谷ユーロスペースほか全国順次公開
『アル中女の肖像』
1979年/西ドイツ/カラー/108分
(C)Ulrike Ottinger
『フリーク・オルランド』
1981年/西ドイツ/カラー/127分
『タブロイド紙が映したドリアン・グレイ』
1984年/西ドイツ/カラー/151分