「ママに愛されたい!」。爆弾と化した9歳の少女が怒り、吠え、暴れ、その先には……。『システム・クラッシャー』

 「こんな少女がいるのか」と驚かされる。そしてなんとも言葉の浮かばない気分になる。もしあなたが、子供の親になるに達した年齢であれば、「自分の娘や息子がこういうふうになってしまった場合、親としてどうふるまえばいいのか?」と自らに問いかけることだろう。自分の子供だもの、それはかわいくて当然なはず。実際、静かな時もある。が、「ある行為」をされると一気にネガティヴなエモーションが沸騰し、物を壊し、暴力をふるい、どこで覚えてきたのか非常に下品な言葉で悪態をつき、窃盗をしたり交通の邪魔をしたり、まるで悪魔が乗り移ったようになる。そんな9歳の女の子・ベニーが、物語の主人公だ。

 母親にはこの女の子以外にも幼い子供がいる。それぞれに等しい愛情を注いでこそ、親というものだろう。だがこの少女は手に余る存在で、自分やほかの家族にも危害を及ぼす恐れがある。そこで特別支援学校などいろんな「ツテ」を見つけては入学させるのだが、あまりにも過激なふるまいに出るので、スタッフの手にも負えない。さあ、彼女をどう社会に存在させてゆくか。病院にとじこめて、電極まみれにするのが望ましい方法なのか。本人・母・支援学校の人々など、「誰も悪いといいきれるわけではないのに、みんながそれぞれの立場で何かしら嫌な思いをしている」描写が切ない。

 さまざまな箇所がネタバレにつながりそうな内容だが、途中、ホッとさせられる場面も散りばめられていて、そのあたりには、作品を「重さ」で押し切ろうとしない監督・脚本のノラ・フィングシャイトのセンスの良さが光る。少女と、(両親ではなく)「父」「母」それぞれの関係を丁寧に描き出しているのも心憎い。この難役を演じた子役のヘレナ・ツェンゲルの力演も称えたい(ドイツ映画賞主演女優賞を歴代最年少で受賞)。ベルリン国際映画祭では10分間のスタンディング・オベーションを得たという。

映画『システム・クラッシャー』

4月27日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開

監督・脚本:ノラ・フィングシャイト 撮影:ユヌス・ロイ・イメール 音楽:ジョン・ギュルトラー
出演:ヘレナ・ツェンゲル、アルブレヒト・シュッフ、リザ・ハーグマイスター、ガブリエラ=マリア・シュマイデ
原題:Systemsprenger 英題:System Crasher 日本語字幕:上條葉月 後援:ゲーテ・インスティトゥート東京 提供:クレプスキュール フィルム、シネマ サクセション 配給:クレプスキュール フィルム
[2019年/ドイツ/ドイツ語/カラー/125分/ビスタ]
(C) 2019 kineo Filmproduktion Peter Hartwig, Weydemann Bros. GmbH, Oma Inge Film UG (haftungsbeschr?nkt), ZDF

公式サイト
https://crasher.crepuscule-films.com/