美貌の皇妃が40歳の決断! 史実とフィクションを交えた斬新かつメランコリックな意欲作『エリザベート 1878』

 宝塚歌劇団や東宝ミュージカルの題材になっていることもあって、日本でも大いに親しまれているオーストリア皇妃エリザベート。彼女をとりあげた作品は枚挙にいとまがないはずだが、この映画は極めてユニークだ。というのは、ほぼ、1878年(日本式にいえば明治10年)の彼女にスポットを当てたテイになっているからだ。

 かつてヨーロッパ宮廷一の美貌との声もあったらしい彼女も、1877年のクリスマス・イヴに満40歳を迎えた。「人生50年時代」の40歳だから、いまでいうと80歳ぐらいの感覚か。もっと自由に、思いのままに生きて、人生のラストランを駆け抜けたい……そう思っても不思議ではない。まだまだ知りたいことはあるし、出会いもほしい。旅もしたい。コルセットをつけて上品にふるまう、判で押したような毎日には飽き飽きだ。

 そんなエリザベートの、スリリングでパンクな姿が活写される。これを筆者は「どんな身分であっても、年齢であっても、人間の好奇心は普遍的なものなのだ」という監督からのメッセージだとひとり感じた。そしてもうひとつ、特筆すべきは、これが「時代劇」でも「史実の再現を重視したもの」でもない、ということだ。楽曲の入れ方、演出、さらに驚嘆のエンディングまで、すべてが「この映画の中でしか出会えないエリザベート像」を強く植えつけてくる。監督・脚本はマリー・クロイツァー、エリザベートには『ファントム・スレッド』や『彼女のいない部屋』などに登場するヴィッキー・クリープスが扮する。本作はロンドン映画祭で最優秀作品賞を受賞、第95回アカデミー賞国際長編映画賞ショートリスト(オーストリア代表)に選出され、クリープスは第75回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門で最優秀演技賞に輝いた。

映画『エリザベート 1878』

 8/25(金)よりTOHOシネマズ シャンテ、Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下 ほか全国順次公開

監督・脚本:マリー・クロイツァー
出演:ヴィッキー・クリープス、フロリアン・タイヒトマイスター、カタリーナ・ローレンツ、マヌエル・ルバイ、フィネガン・オールドフィールド、コリン・モーガン
原題:Corsage 字幕:松浦美奈 字幕監修:菊池良生 後援:オーストリア大使館/オーストリア文化フォーラム東京、ドイツ連邦共和国大使館、オーストリア政府観光局 提供:トランスフォーマー、シネマライズ、ミモザフィルムズ 配給:トランスフォーマー、ミモザフィルムズ
2022年/オーストリア、ルクセンブルク、ドイツ、フランス/ドイツ語、フランス語、英語、ハンガリー語/114分/カラー・モノクロ/2.39:1/5.1ch
(C)2022 FILM AG – SAMSA FILM – KOMPLIZEN FILM – KAZAK PRODUCTIONS – ORF FILM/FERNSEH-ABKOMMEN – ZDF/ARTE – ARTE FRANCE CINEMA

公式サイト
https://transformer.co.jp/m/corsage/