「ユダヤ人虐殺」に関わった最重要人物のひとりがアドルフ・アイヒマンだ。彼は第二次大戦が終わった後に捕虜収容所から脱出、偽名を使うなどして生き延びて、ドイツから家族を呼び寄せてアルゼンチンに隠居していた。現実はいつも権力者や悪者に厳しくないものだと思うが、15年ものうのうとした後、1960年、ついに捉えられ、5月21日にイスラエルに連行されて、翌61年12月に死刑判決が下された。タイトルに登場する「6月0日」とは、イスラエルが死刑を行使する唯一の時間であるという、5月31日から6月1日の真夜中にかけてのことだ。
この映画は、A)死刑判決から処刑されるまでの「アイヒマン最期の6カ月」、B)火葬が禁止されている場所で、極秘で「火葬装置」を作ることに巻き込まれてしまった職人たち、C)図らずもそこに混じることになったリビア系の移民少年、その他いろんな要素が、三重、四重のフーガのように絡み合いながら、「ある意味(職人たちにとって)とても酷なことなのに、なぜか詩情豊か」な世界へと案内する。後半になるほど移民少年の存在感は増し、ラスト、すっかり成長した彼が「時代の生き証人」として画面に登場してからの展開、他者との会話が、齟齬の集積という感じで、重くつらく胸に迫る。監督・共同脚本ジェイク・パルトロウ、共同脚本トム・ショヴァル。
映画『6月0日 アイヒマンが処刑された日』
9月8日(金)TOHO シネマズシャンテほか全国公開
監督:ジェイク・パルトロウ
脚本:トム・ショヴァル、ジェイク・パルトロウ
出演:ツァヒ・グラッド 、ヨアブ・レビ 、トム・ハジ、アミ・スモラチク、ジョイ・リーガー、ノアム・オヴァディア
2022年/イスラエル・アメリカ/ヘブライ語/105分/ヨーロピアン・ビスタ/カラー/原題:JUNE ZERO/日本語字幕:齋藤敦子
配給:東京テアトル 宣伝:ロングライド
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