こんな「母と子の絆」があってもいい。各国の映画祭で話題を呼んだ一作『草原に抱かれて』が日本公開

 昨年の東京国際映画祭でも話題を呼んだモンゴル映画が、いよいよ9月23日より東京K’s cinemaほかで公開される。

 メインとなるキャラクターは、ヒップホップ系(といっていいだろう)気鋭ミュージシャンのアルスと、アルツハイマー型認知症を患っている母。母はアルスの兄と同居していたが、「兄さん、母さんに対してその対応はひどいぜ」と感じたのか、アルスは母を引き取り、母の故郷の大草原で同居生活を始める。

 が、徘徊はおさまらず、用便もところかまわず。少しずつ少女、幼児の頃に立ち返っているような、そんな無邪気さを見せることもある。だが、それでも母は母。アルスは自分と母を太いロープでしばりつけて、母の「思い出の木」を探す旅に出る。ストーリー展開は決して物珍しいものではないはずだ。が、そこに内モンゴル自治区の雄大な自然、途方もない空と道の広さ、見晴らしのよさが重なると、その物語に「詩情」が降り注いでくるような気分になるのだから面白い。撮影監督ツァオ・ユーもまた、この映画における重要な存在なのだ。

 アルス役のイデルはもともとミュージシャン(民族電子楽器奏者)で、これが映画初主演。母役のパドマは歌手と俳優の双方で名声を得ており、いくつもの賞に輝いている。1965年(昭和40年)生まれの彼女が、ここでは徹底的に一人の老婆に扮して、途方もなくしゃがれた老人感を出しているのには、驚嘆させられるほかない。監督・脚本のチャオ・スーシュエはダグール人(中国で公式に認められた56の少数民族のひとつ)で、フランス・パリでの活動歴を持つ。これが長編デビュー作であるとのことだが、今後の活躍を大いに期待させるに充分だ。

映画『草原に抱かれて』

9月23日よりK’s cinemaにてロードショー

監督・脚本:チャオ・スーシュエ
配給:パンドラ
2022年|中国|モンゴル語|96分|カラー

公式サイト
http://www.pan-dora.co.jp/sougen/