「自分中心世界」「あくなき承認欲求」を希求した末に、彼女が体験したものとは? 『シック・オブ・マイセルフ』公開

 ものすごい作品だ。どこをどうすればこんな性格の主人公に生まれ育つのだろう。「ノルウェーのアカデミー賞」ことアマンダ賞では5部門にノミネートされ、2022年カンヌ国際映画祭「ある視点」部門にも出展された話題作。この「視点」はとんでもないと、おののきながら見入った。

 主人公・シグネはいうなれば、承認欲求のかたまり。常に自分が話題の中心でいたいし、注目されていたい。そのためには、いくらでも嘘をつくし、周りを巻き込むことなど屁とも思わない。だがそんな彼女にも彼氏がいて、彼氏のトーマスは美術家として上り坂にある。とはいえ彼女には恋人の躍進を望もうという気持ちなどなく、どんどん注目されてゆく彼にむかつくばかりだ。ああ注目されたい。チヤホヤされたい。中心でいたい。そのためにはどうすればいいのか?

 彼女は、進んで「破滅」の道を選んだ。みずから「謎の疾病」を患い、「それと闘う悲劇のヒロイン」を演じることにした。その途中で、スターになって注目を浴びている自分の姿をたびたび妄想する。現実の世界ではうまくいっていない知人や親族が頭を下げてきて、自分の葬式に長蛇の列ができて大騒ぎの状況を頭に描く。この映画はホラーなのか、コメディなのか、それともなんなのか?

 後味は苦く、酸っぱい。観終わってしばらく考えたのは、「寓話」であるということ。「教訓」であるということ。承認欲求や自己愛というものは、使いようによっては、人間活動にとっての良きモチベーションにはなろう。が、それは、両刃の剣であるということを、脚本・監督を務めたノルウェー・オスロ出身の気鋭であるクリストファー・ボルグリは、実に鮮やかに描き出す。シグネ役はクリスティン・クヤトゥ・ソープが務めた。

映画『シック・オブ・マイセルフ』

10月13日(金)より新宿武蔵野館、渋谷ホワイトシネクイントほかロードショー

脚本・監督:クリストファー・ボルグリ
出演:クリスティン・クヤトゥ・ソープ 、エイリック・セザー、ファニー・ベイガー
2022年|ノルウェー・スウェーデン・デンマーク・フランス|97分|COLOR|ノルウェー語・英語|原題:SYK PIKE|字幕翻訳:平井かおり【映倫区分:PG-12】 配給:クロックワークス
(C) Oslo Pictures / Garagefilm / Film I Vast 2022

公式サイト
https://klockworx-v.com/sickofmyself/