1960年代の実話、いわゆる“ブライバンティ事件”に基づく映画だ。
イタリアのピアチェンツァに住む主人公のアルドは詩人で劇作家、蟻の生態研究者。見識に富む、ひじょうに知的な人物だ。だが彼は同性愛者であるがゆえに、カトリックとマルキシズムの国では、とんでもない無法者とみなされる。やがて生徒のエットレとの師弟関係に熱が入るが、止まらない恋心を抱いたのはエットレだ。ローマに移り住んだアルドを追って、同棲の日々が始まる。愛と尊敬にあふれた美しい日々だったはずだとしても、それを知ったエットレの親は怒りに沸いた。第一、「自分の息子が同性愛者」というのは社会的にも都合が悪い。二人は引き離され、エットレは矯正施設で“アルドにたぶらかされて、期せずして同性愛というヤバい病気にかかったために、治療しなければならない”とばかりにショック療法を受けさせられる。そして、アルドは逮捕された。
逮捕の後には裁判がある。ここからがさらなる物語のクライマックスなのだが、まさに百聞は一見に如かず。アルドは怒らず騒がず、自分のセクシャリティに対して弁解するわけでも、わかってもらおうと力むわけでもない。「私はこれでいく。君たちはそれでいけばいい。ただそれだけだ。私は君たちに干渉しないから、君たちも私に干渉しないでくれ」という声がきこえてきそうな、穏やかながらパワフルな行動と発言。狂言回しというべき新聞記者エンニオの存在感は、物語後半になるほどに増す。監督・脚本はジャンニ・アメリオ、アルド役はルイジ・ロ・カーショ、エットレ役はレオナルド・マルテーゼ、エンニオ役はエリオ・ジェルマーノ。ヴェネチア国際映画祭コンペティション部門出品5部門受賞作品。
★映画『蟻の王』
11月10日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMA、アップリンク吉祥寺ほか全国順次
監督・脚本:ジャンニ・アメリオ
脚本:エドアルド・ペティ、フェデリコ・ファバ
編集:シモーナ・パッジ
撮影:ルアン・アメリオ・ウイカイ
美術:マルタ・マッフッチ
出演:ルイジ・ロ・カーショ、エリオ・ジェルマーノ、レオナルド・マルテーゼ、サラ・セラヨッコ
2022年/イタリア/イタリア語/ビスタ/カラー/Dolby Digital/140分 映倫:G
配給:ザジフィルムズ
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