十年来の友人が、逮捕されたら? 実話から着想された物語『エス』

 若手の映画監督として注目されていた染田が、とある罪によって逮捕される。そこで集まったのが大学時代、ともに演劇に興じていた友人たち。嘆願書を書こうというのだ。そのなかには、染田の次回作に出演が決まっていた者もいれば、染田への思いを残しながら別の男性と結婚したばかりの女性もいる。セリフをきいたり着る物を見る限り、みな、トンネルの向こうの光が見えるところには至っていない。どうにか、少しでも良い明日をつかもうと苦闘している感じだ。そんなところに、「同志」染田逮捕の報が飛び込んできたのだから、驚きはいかほどのものだったろう。

 「逮捕者が友人」ということが知られるのは社会生活上マイナスであり、縁を切る者があらわれたとしても責められるものではない。また、この物語のベースとなった物事が起きたのは2010年代初頭のようで、それを「キャンセルカルチャー」が普通になった今、映画化し、それを観客に届けるのは、興味深いことであろう。登場人物がやたら二人称代名詞として「おまえ」という言葉を言うのも、「昔性」を出すためのファクターなのかもしれないと感じたが。

 「友人が逮捕されてしまった」「もしくは自分が逮捕された」ことのある人は決して多くないにしても、確実に存在する。入り乱れた気持ちをエモーショナルに表現する「千穂」(松下倖子が演じる)が、ひときわ異彩を放つ。脚本・監督、太田真博。

映画『エス』

1月19日よりアップリンク吉祥寺にて劇場公開

【キャスト】
松下倖子 青野竜平 後藤龍馬 安部康二郎 向有美 はしもとめい 大網亜矢乃 辻川幸代 坂口辰平 淡路優花 石神リョウ 篠原幸子 中尾みち雄 ノブイシイ 岡山甫 高村明裕 太田真博 松永直子 / 河相我聞

【スタッフ】
監督・脚本・編集:太田真博 プロデューサー:上原拓治 撮影監督:芳賀俊 録音:柳田耕佑 助監督:山田元生 特機:沼田真隆 撮影助手:中川裕太 監督助手:玉置正義 車輌:堀田孝 スチール:ViVi小春、浦川良将 カラリスト:五十嵐一人 音楽:窪田健策 劇中台本:大野敏哉 宣伝:Cinemago 制作プロダクション:株式会社上原商店
2023年/日本/DCP/110分/カラー/アメリカンビスタ/5.1ch
(C)2023 上原商店

公式サイト
https://s-eiga.com/#