世界の映画賞で42受賞、60超ノミネート。「生きる喜び」を知った少女が主人公の、感動物語『コット、はじまりの夏』

 第72回ベルリン国際映画祭 グランプリ 国際ジェネレーション部門(Kplus)、第95回アカデミー賞国際長編映画賞等に輝く一作が1月26日から全国順次上映される。

 英語タイトルは「The Quiet Girl」。なるほど、主人公の少女・コット(キャサリン・クリンチ)は物静かだ。というより「物静かになってしまった」のだろう。両親からの愛をたっぷり受けているとはいえず、学校にもなじめない。最近の映画の常として、暴力・虐待・いじめなどのシーンはなく、演出によって観る者に想像させる形となっているが、とにかく、まったく幸せそうには見えない。きょうだいとの関係も円滑ではなさそうだ。まだ9歳だというのに、彼女にとっては、自分の存在感を消すことが、毎日を生きてゆく手段になってしまっているかのようにも感じられる。

 そんなコットが、夏休みの間、両親やきょうだいの許を離れて、親戚夫妻の家で過ごすことになった。実家から車で3時間ほどかかる、見渡す限り緑の広大な敷地に、その一軒家はある。親戚夫妻との生活の中で、コットはしだいに生き生きとし始める。わからないことがあれば質問し、嬉しい時は嬉しそうにする。親戚夫妻は彼女の話をしっかりきいて、受け止める。存在を認めてくれるひとがいることの喜びを、このときコットは噛みしめたに違いない。が、夏休みはいつか終わるし、コットにとっての肉親は決してその親戚夫妻ではない……。

 物語の設定は、1981年夏のアイルランド。スマートフォンの類は一切登場せず、かわりに大自然や牛たちの姿がフィーチャーされる。個人的には「水面」の描き方にも感銘を受けた。そして私は、ラスト・シーンの「その後」を勝手に数パターンも考えた。そうならずにはいられない、想像力をかきたてる一作なのである。監督は、これが長編第一作となるコルム・バレード。

映画『コット、はじまりの夏』

1月26日(金) ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテ、渋谷ホワイトシネクイントほか全国公開

監督・脚本:コルム・バレード プロデューサー:クリオナ・ニ・クルーリー 撮影:ケイト・マッカラ 音楽:スティーブン・レニックス
出演:キャリー・クロウリー、アンドリュー・ベネット、キャサリン・クリンチ、マイケル・パトリック
原題:「An Cailun Ciuin」 英題:「The Quiet Girl」 原作:クレア・キーガン「Foster」 字幕:北村広子 後援:駐日アイルランド大使館 配給・宣伝:フラッグ
2022年|アイルランド|アイルランド語、英語|カラー|スタンダード|5.1ch|95分|G
(C) Insceal 2022

公式サイト
https://www.flag-pictures.co.jp/caitmovie/