言葉を失う「現実の風景」の数々。第96回アカデミー賞 長編ドキュメンタリー賞受賞作品『マリウポリの20日間』

 胸が痛くなる。しかもこの映画に描かれているのは、「やりあい」ではなく、「一方的な攻撃」だ。2022年2月、ロシアによるウクライナ東部マリウポリへの進攻――――つい数十秒前まで普通に存在していた建物がたったいま爆破され、爆風が吹き、破片が飛び散り、爆音が耳をつんざく。おそらく「なぜ私たちが?」と思う間もなく彼らの体には痛みが広がり、血が噴き出る。破壊された産婦人科から、担架に乗った、息も絶え絶えな妊婦が運ばれていくシーンは、特に見るのがしんどかった。その後、母子ともに絶命したというから悲しすぎる。配信された動画に衝撃を受けて、「ひどいんじゃないか?」という口調で尋ねる記者たちに、あの国のエライひとは「あれは役者が演技しているんだ」「フェイクだ」と真顔で言う。

 もちろん、何らかの理由があるからこうなっているのであろうし、ドンバス戦争など過去のもろもろのことも避けては通れないはずだ。が、それにしても。ミスティスラフ・チェルノフ監督はAP通信のビデオグラファーで、この惨状を世界に知ってもらおうと映像を配信し、この映画では英語でナレーションもしている。今年3月に行われた第96回アカデミー賞では長編ドキュメンタリー賞を受賞した。ウクライナ映画史上、初めてのアカデミー・ウィナーになってしまったらしい。彼は言う。「このオスカー像を、ロシアがウクライナを攻撃しない、私たちの街を占領しない姿と交換できれば、と願っています」。

 観るのはしんどいが、これが(も)現実であり、地球という惑星に間借りしているはずの人類が厚顔無恥に刻んでいる「いま」なのだ、ということである。

映画『マリウポリの20日間』

4月26日(金) TOHOシネマズ日比谷ほか全国緊急公開

監督・脚本・製作・撮影:ミスティスラフ・チェルノフ
スチール撮影:エフゲニー・マロレトカ
フィールド・プロデューサー:ワシリーサ・ステパネンコ
プロデューサー、編集:ミッチェル・マイズナー/プロデューサー:ラニー・アロンソン=ラス、ダール・マクラッデン/音楽:ジョーダン・ディクストラ
2023年/ウクライナ、アメリカ/ウクライナ語、英語/97分/カラー/16:9/5.1ch/G
原題:20 Days in Mariupol/字幕翻訳:安本熙生 配給:シンカ
(C)2023 The Associated Press and WGBH Educational Foundation

公式サイト
https://synca.jp/20daysmariupol/