36人の女性に危害を加えた男の正体とは? ソビエト連邦末期の実話を基にしたサイコ・スリラー『殺人鬼の存在証明』

2021年制作のロシア映画が公開されることになった。社会派、ミステリー、歴史もの、サスペンス、SF、いろんな言葉が思い浮かぶが、どれもしっくりこない。その間を悠々と泳ぎまわりながら、観る者を、妖しい世界へと案内してくれるといおうか。

 描かれている時代はソビエト連邦崩壊までの、およそ10年間。1991年、一命をとりとめた女性が保護される。調べたところ、非常に個性的な手法で乱暴され、殺されかかっていたことが分かった。そしてその手法は、とある殺人犯の手口と酷似していた。が、その殺人犯らしき男は1988年に逮捕されていた。ではその男は誤認逮捕だったのか。それとも、そのユニークな乱暴・殺人手法を、偶然にも、あまりにもそっくりにとっている男が別にいたのか。

 と書くと、私などは「真犯人は誰だ?」とお茶の間探偵気分になってしまうのだが、時代を前後する演出、数十分の「章」ごとにわかれた描写が、こちらを一定の気分にとどめておくことはない。それに「91年の事件の犯人」と「88年に捕まった犯人らしき男」の手法は、必ずしも100パーセント合致していたわけではなかった。新たに逮捕された男の「エモーション」、それを取り調べる者たちの「エモーション」と「とりあえずこいつを犯人にしておけば一件落着」的イージーかつおごり高ぶった態度が、不気味なうねりを生じさせる。

 「これは大変などんでん返しだ」という気持ちと「ああ、なるほど」という相対する感情が、私には同時に押し寄せてきた。皆さんはどうだろう、ぜひご体験いただきたい。監督・脚本:ラド・クヴァタニア、脚本:オルガ・ゴロジェツカヤ、出演:ニコロズ・タヴァゼ、ダニール・スピヴァコフスキ、ユリヤ・スニギル、エフゲニー・トゥカチュク等。

映画『殺人鬼の存在証明』

2024年5月3日(金・祝)より 新宿バルト9 ほか 全国ロードショー

監督・脚本:ラド・クヴァタニア 脚本:オルガ・ゴロジェツカヤ
出演:ニコ・タヴァゼ、ダニール・スピヴァコフスキ、ユリヤ・スニギル、エフゲニー・トゥカチュク
2021年/ロシア/ロシア語/スコープサイズ/5.1ch/138分
原題:KAZN(英題:THE EXECUTION)/レイティング:G/字幕翻訳:平井かおり
配給:クロックワークス
(C) 2021 HYPE FILM – KINOPRIME

公式サイト
https://klockworx.com/movies/17894/