文化庁芸術祭大賞受賞作が、満を持して映画化された。約160分の長編ドキュメンタリーである。
「飯塚事件」をご存じだろうか。1992年に福岡県飯塚市で、女児ふたりが殺害された事件だ。犯人として逮捕された人物は2008年に死刑執行されている。この映画の主眼は真犯人探しではない。大して物的証拠が集まっていない段階でなぜこの人物が処刑されてしまったのか、ということだ。
そこで登場するのが、事件から約30年を経て、すっかり年齢を重ねた西日本新聞社のジャーナリストであり、弁護士であり、警察官である。彼らは自らの職業上において、「ああ、そう言うに決まっているだろうな」ということを、実に真摯に、曇りのない表情で発する。自らの職業に対する誇りが、その凛とした口調から感じ取れる。が、立場の違いはまた、見解の違いであり、印象の違いである。「この程度の物的証拠で、どうしてこの人物を?」という意見と、「この人物が罪を犯したことは、とにかく明白」という意見が交わることはない。
強く伝わってきたのは、「では、あなた(=この映画を観る者)はこの事件についてどう考えるのか?」という問いかけと、「あなたもこうした案件に巻き込まれる可能性があるのだ」という警告だ。よって映画終了後、何時間も我々は余韻の中で、自分の心と語り合うことになる。
映画『正義の行方』
4月27日(土)より[東京]ユーロスペース、[福岡]KBCシネマ、[神奈川]横浜 シネマ・ジャック&ベティ、[大阪]第七藝術劇場にて公開、ほか全国順次公開
監督:木寺一孝 制作統括:東野真 撮影:澤中淳 音声:卜部忠 照明:柳守彦 音響効果:細見浩三 編集:渡辺政男 制作協力:北條誠人(ユーロスペース) プロデューサー:岩下宏之 特別協力:西日本新聞社 協力:NHKエンタープライズ テレビ版制作・著作:NHK 制作:ビジュアルオフィス・善 製作・配給:東風
2024年/158分/DCP/日本/ドキュメンタリー
(C)NHK