ヴェンダース×キーファー! 第76回カンヌ国際映画祭特別上映ワールドプレミア作品『アンゼルム “傷ついた世界”の芸術家』

 説明不要の鬼才監督ヴィム・ヴェンダースが、同じ1945年に生まれ、同じ母国(ドイツ)を持つ芸術家アンゼルム・キーファーを描く。ヴェンダースとキーファーの組み合わせなのだから、それだけで、たまらなくアーティスティックな香りが漂ってくる。キーファーを題材にしているといっても、まだ彼が若手だった頃に収録された談話なども収められているとはいえ、いわゆる「いつどこで生まれ、こうして成長して、芸術に開眼して、こんな作品で注目されて、今はこんなことをしている」的な、編年体的な仕上がりではない。別に最初からではなくて、あえて途中から観はじめても楽しめそうだ。とにかく全編に花開いているのは、キーファーの個性である。

 初期のひじょうに精緻なドローイングから、物議を巻き起こした「ナチス式敬礼」写真(1969年)、工場のようなアトリエであまりにも巨大なスケールを持つ作品に打ち込む近年の姿まで、さまざまな「キーファー」が見る者を引き込む。変化に富むカメラ・ワーク、色調、創作時に発せられる音など、すべてが効果的であり、創作する場所の「とんでもない天井の高さ」と「豊かな自然光の入り方」に、なんとこの芸術家は快い環境で事にあたっているのだろうと感じた。チマチマしたところでやっていては、あんなに伸び伸びとした、広がりのある芸術など仕上がるわけがないのだ。

 1999年に「高松宮殿下記念世界文化賞」を受賞したキーファーだが、7月13日まで東京・青山にあるファーガス・マカフリー東京で彼の個展「Opus Magnum」が開催中。今年の夏は日本にいながらにして、映画と個展の双方でキーファーを味わえるわけだ。

映画『アンゼルム “傷ついた世界”の芸術家』

6月21日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国順次公開

監督:ヴィム・ヴェンダース エグゼクティブプロデューサー:ジェレミー・トーマス 撮影:フランツ・ルスティグ ステレオグラファー:セバスチャンクレイマー 編集:マクシーン・ゲディケ 作曲:レオナルド・キュスナー
出演:アンゼルム・キーファー ダニエル・キーファー アントン・ヴェンダース
2023年/ドイツ/93分/1.50:1/ドイツ語・英語/原題:Anselm/カラー・B&W/5.1ch/3D&2D
字幕:吉川美奈子 配給:アンプラグド
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公式サイト
https://unpfilm.com/anselm/