伝説の潜水艦を、海軍全面協力のもとに再現。ベネチア国際映画祭コンペティション部門出品作品

 「潜水艦コマンダンテ」こと「コマンダンテ・カッペリーニ」は、1939年9月に就役したイタリア海軍の潜水艦。イタリアと同じく枢軸国であったドイツや日本の軍隊とも深い縁があり、最後は日本軍の潜水艦となって、敗戦後、連合軍によって処分された。

 この映画で描かれているのは、1940年10月の風景。まさか自分たちが負けるとは思っていなかっただろう時期のストーリーと言っていいだろう。船は、イギリス軍への物資供給を断つという目的のために、地中海からジブラルタル海峡を抜けて大西洋へ向かっていた。そして、海路の途中で船籍不明の船を撃沈する。が、それはベルギー(40年5月にナチス・ドイツ軍に侵攻された)の船籍の貨物船だった。そこでコマンダンテ・カッペリーニの艦長は、自分の船の武力で沈めたカバロ号の乗組員たちを、敵ではないからであろうが救助して、最寄りの港まで運ぶことを決める。こちらが一方的に攻撃して被害を与えてしまったので、せめてものつぐないということか、しかし、やられたほうからみれば「青天のへきれき」だ。が、そこはそれほど年齢の変わらない男どうし、なんともいえない信頼や友情めいたものも生まれ、弦楽器を弾きながら歌う、劇中では数少ないであろう、なごみのシーンも出てくる。

 潜航をあきらめて、無防備状態のままイギリス軍の支配海域を航行するということは、最悪、カッペリーニと元カバロ号の両乗組員が海の藻屑となることも意味する。そこをどう切り抜けていくか、その手法には大変に冷徹で知的なまなざしが求められる。荒れる海、揺れる船内、流れ込む水の威力、くすんだ空、それらが卓越したカメラ・ワーク、色合いによって見事に描かれており、観る者はいつしか、自分が1940年のヨーロッパの海上で行われている男たちのやり取りの現場に立ち会っているような気分になるはずだ。

 監督は「堕ちた希望」のエドアルド・デ・アンジェリス、トーダロ艦長役はピエルフランチェスコ・ファビーノ。イタリア海軍全面協力のもと、実物大の潜水艦コマンダンテ・カッペリーニを再現したというセットも圧巻だ。2023年、第80回ベネチア国際映画祭コンペティション部門出品作品。

映画『潜水艦コマンダンテ 誇り高き決断』

7月5日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開

監督:エドアルド・デ・アンジェリス
原案:エドアルド・デ・アンジェリス
2023/イタリア・ベルギー/イタリア語・オランダ語・英語/シネマスコープ/121分
原題:Comandante/後援:イタリア文化会館/字幕翻訳:岡本太郎/配給:彩プロ
(C)2023 INDIGO FILM-O’GROOVE-TRAMP LTD-VGROOVE-WISE PICTURES

公式サイト
https://comandante.ayapro.ne.jp/