人間が人間を愛すること、それを誰に責められよう。異文化とジェンダーの狭間で描かれる、耽美的な一作、『今日の海が何色でも』

 「恋愛と宗教」というテーマに正面から、だが重々しさを極力排しつつ向かい合った作品との印象を受けた。物語はソンクラーという土地で展開される。ここはタイとマレーシアの国境にある。つまり仏教とイスラム教の境でもある。かつては美しい砂浜があったそうだが、今は人工の岩が護岸用に置かれている。とはいえ、地元の人の感覚はさておき、日本人の私にはそれでも美しいと感じられたし、「広くて青い海の魅力」は画面越しから伝わってきた。

 このソンクラーで、イスラム教徒であるシャティと、ビジュアルアーティストのフォンという二人の女性が出会った。かたや「伝統」、かたや「革新」といったキャラクターだろうが、互いに、自分の中にないものに惹かれたのか、やがて意気投合し、クリエイティヴな生活を送るようになっていく。それが恋に変わってゆくのは半ば必然といったところ。だがイスラム教で同性愛は禁じられているので、シャティは大いに葛藤しながら、さらに他界した祖母が教えてくれた「教訓」も思い出して、ひどく内省的な日々へと突入する。シャティがこの問題(矛盾)と向かい合い、乗り越えていくのか。いや、果たして乗り越えられるのか。いやいや、そもそも乗り越える必要があるのか。我々は目を皿のようにして彼女の精神世界を探求することになる。

 鏡を効果的に用いたシーンを始め、カメラ・ワークが非常に知的・緻密であるところも、この作品の大いなる魅力であると感じた。監督はこれが初長編となるパティパン・ブンタリク、出演はアイラダ・ピツワン、ラウィパ・スリサングアン。

映画『今日の海が何色でも』

2025年1月17日(金)より、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開

監督・脚本:パティパン・ブンタリク(初長編監督作品)
出演:アイラダ・ピツワン、ラウィパ・スリサングアン
2023年/タイ/タイ語・南部タイ方言/93分/1.85:1/カラー/5.1ch/映倫区分「G」/原題:ทะเลของฉัน มคี ลืน่เล็กนอ้ ยถงึปานกลาง /英題:Solids by the Seashore/日本語字幕:塩谷楽妥 / 製作:Diversion / 配給:Foggy / 配給協力:アークエンタテインメント

公式サイト
https://movie.foggycinema.com/kyounoumi/