第77回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門 正式出品作品。雪の降る街での、小さな恋の物語『ぼくのお日さま』

 淡々とした描写、自然な光の活用に心和む。ストーリーの展開は、アップテンポというよりもゆったり目だ。セリフも決して多くはない。首根っこを掴まれるようにして物語に引き込まれるというよりは、気が付くと自然に物語がからだになじんでくる感じだ。

 寒い地方の、小都市における物語。主役にあたるのは、選手になる夢をあきらめたフィギュアスケートのコーチ(池松壮亮)と、コーチに憧れるスケート少女(中西希亜良)と、アイスホッケーの苦手な少年(越山敬達)。なぜ「苦手な少年」がここにいるかというと、少女の舞う姿を見て好意を抱いてしまったからだ。とある過程を経て少年と少女はコンビを組むことになるのだが、その先には技術的にも、精神的にも超えなければならないハードルが待っている。年ごろの異性ふたりが組んでひとつの目標に向かっている時、よく起こりそうなパターンがふたつある。当事者の間では「恋」、外部、とくにクラスメイトの間では「冷やかし」だ。それに対する実にクールなまなざしも、私はこの映画に感じた。アイスダンス経験者であるという中西希亜良の動きのキレが、猛烈に鮮烈だ。またラスト・シーンの展開には、「ぜひ続編を」と望みたくなる。

 ドビュッシーの「月の光」のほか、ポップ・ソングの「ゴーイン・アウト・オブ・マイ・ヘッド」(「君に夢中」という邦題がつけられることもある)が実にいい場面で使われているのも印象深い。しかもリトル・アンソニー&ジ・インペリアルズや、セルジオ・メンデス&ブラジル66のヴァージョンではなく、より通好みなザ・ゾンビーズの演唱である。監督・脚本・撮影・編集の奥山大史は『僕はイエス様が嫌い』で第66回サンセバスチャン国際映画祭の最優秀新人監督賞を受賞した気鋭で、この『ぼくのお日さま』が商業映画デビューとなる。この作品はまた、先日開催された第77回カンヌ国際映画祭にも正式出品された。

映画『ぼくのお日さま』

9月6日(金)~9月8日(日)テアトル新宿、TOHOシネマズシャンテにて3日間限定先行公開
9月13日(金)より全国公開

監督・撮影・脚本・編集:奥山大史
出演:越山敬達、中西希亜良、池松壮亮、若葉竜也、山田真歩、潤浩 ほか
主題歌:ハンバート ハンバート 本編:90分 配給:東京テアトル
(C)2024「ぼくのお日さま」製作委員会/COMME DES CINEMAS

公式サイト
https://bokunoohisama.com/