「ノルウェーで最も美しい街」を舞台に、心の居場所を見出していく女性記者の姿。猫ファン、小津ファンも必見の『ヒューマン・ポジション』

 「ノルウェーで最も美しい街」と称されているというオーレスンを舞台とする一作。風景の美しさ、描き方の温かさに惹かれる。物語は静かに、だが確実に流れていく感じ。主人公のひとりであるアスタは新聞社に勤め、地元の出来事をニュースにしている。パートナーであるライヴは、エレクトーンや作曲が得意で、デザインチェアを修復する才能もある。部屋では猫がくつろいでいる。

 「ああ、スローライフとはこういうものなのだろうなあ」とこちらが思い始めた頃、アスタはひとつの記事を目にする。10年間ノルウェーに住んできた難民が強制送還されたというニュースだ。ジャーナリストである彼女は、当然ながらその事柄に関して調査を進めていく。当然ながら、入り込むほどに見えてくるのは、後味の悪い出来事や、ダークネスである。が、それでも空は澄んでいて、日差しは優しく、猫はくつろいでいる。ジャーナリストとしての自分と、一市民としての自分、その2つは、アスタの中で実に穏やかにせめぎあっている印象を私は受けた。

 猫のフィーチャーの仕方、横画面の両端を物でミュートして縦で出演者の動きを見せるところ、小津安二郎の名作映画からの音声サンプリング、箸を使った食事風景でのカメラ・ワークなど、「こういう手法があったのか」と驚かせるに足る描き方もいっぱいだ。監督は本作が長編2作目となる、オーレスン出身のアンダース・エンブレム。主演の女性ふたりには、アマリエ・イプセン・ジェンセンとマリア・アグマロが扮する。

映画『ヒューマン・ポジション』

9月14日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開

監督・脚本・編集:アンダース・エンブレム
撮影:マイケル・マーク・ランハム 音楽:エイリク・スリニング
製作:スティアン・スキャルタッド、アンダース・エンブレム
出演:アマリエ・イプセン・ジェンセン、マリア・アグマロ、ラース・ハルヴォー・アンドレアセン
原題:A Human Position 日本語字幕:西村美須寿 提供:クレプスキュール フィルム、シネマ サクセション 配給:クレプスキュール フィルム
[2022年/ノルウェー/ノルウェー語/カラー/ビスタ/78分]
(C)Vesterhavet 2022

公式サイト
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